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仏刑事(グッドコップ)と鬼刑事(バッドコップ)。
十二日に辞任を表明した米国のロバート・ルービン財務長官(60)と、後任のローレンス・サマーズ副長官(44)の違いを、あるウォール街関係者はそう表現する。
「友人の結婚式でサマーズに会ったが、とにかくいばったオジサンだった。ルービンの方が、人間の心理を読むことに長けている」
ルービン氏は長身かつ痩身。スーツをスマートに着こなし、会見では記者の目を見ながら話す。日本の官僚答弁のように精緻に計算された発言。感情を乱さない。頭が切れるだけでなく、人間としてチャーミング。ある米国人記者はそう表現する。
○生粋金融人のルービン
辞任が報道された十二日、NY株式市場が二一三ポイント急落したことでも分かるように、経済界がルービン氏に寄せる信頼は厚い。民主党政権としては異例のことだ。
昨年九月、ヘッジファンド「ロング・ターム」(LTCM)が十八億ドルの損失を出して破綻、市場が動揺するや、十四の金融機関をまとめて救済策を打ち出した。今年二月のブラジル通貨危機でも、発生後数日内に同国首脳と会談、一時急落した市場を回復させた。
ルービン氏は、約三十年を投資銀行ゴールドマン・サックスで過ごした生粋の金融人だ。政権入り前は会長として年千五百万ドルを稼ぎ、資産は五千万ドル。ウォール街には珍しい民主党員で、大統領選挙の資金集めをした縁で国家経済会議(NEC)議長に迎えられ、九五年に財務長官に就いた。
クリントン当選直後に、福祉や医療に政府支出を増やそうとする政権内の民主党左派を抑え込み、支出カット・財政赤字削減を政策の第一に据えたのはルービン氏だ。これが二期目以降の政権の「中道経済路線」の柱になった。
おかげで、着任当時二千五百五十億ドルあった財政赤字は七百九十億ドルに減少。三千二百台だったダウ平均株価は一万千台の最高値を記録、失業率も六・九から四・三%に減った。グリーンスパン連邦準備制度理事会議長と並んで、空前の好景気を支えた「船頭」であることは議論の余地がない。
○天才経済学者サマーズ
一方、サマーズ氏はルービン氏とは人柄も経歴も対照的だ。ぶっきらぼうで、直截的すぎる物言い。すぐ赤くなって言葉を荒らげる。しょっちゅうシャツをズボンから出して歩いている。
学界の出身である。普通は五十歳近くまでかかるハーバード大学の教員ポストを最年少の二十八歳で得た天才エコノミスト。クリントン氏が当選した直後から、経済政策の立案ブレーンとして働いていた。
「傲慢」という評判がついて回る。経済の理解が遅い人間には露骨に軽蔑の表情を見せる。ワシントンでの交渉に必要な人心掌握術に疎い。そんな話が伝わってくる。
「産業廃棄物は毒性を下げてアフリカに投棄すればいい」
政権入りする前の世界銀行のエコノミスト時代、そんなリポートを書いたことがばれ、一時閣僚入りを外されたこともある。
が、サマーズ氏が長官になっても、経済政策に大きな変化はない、というのが専門家の一致した観測だ。どのみちクリントン政権の任期は残り十八カ月だし、順風満帆の米国経済をあえて針路変更する必要もないからだ。
ただ、思ったことをすぐ口にする性癖から、失言が飛び出して短期的にマーケットが振り回される可能性はある。ウォール街が懸念するのはその点だ。
「ルービン長官からは『慎重に』。グリーンスパン議長からは『遠回しに物を言うように』。そうアドバイスされました」
サマーズ氏もそう打ち明けている。本人も変えようと努力しているのだろう。「最近のサマーズはルービンらしくなった」。そんなジョークまで流れている。
「これはあくまで私個人の意見ですが……」
最近、サマーズ氏はそんな前置きをしてから会議で発言するようになった。その変貌ぶりが周囲を驚かせている。ちなみにこの言い回しは、ルービン氏の口癖だそうである。
(AERA 1999年05月24日)
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