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包茎商法に騙されるな!

おチンチンに醜い傷。勃起すると激痛。男なら、考えるだに恐ろしい話である。そ んな被害がいま全国に広がっている。違法広告で情報不足につけこむ手口。これはも はや「詐欺商法」ではないのか。



商店街のパチンコ屋の裏にある事務室で待った。夜7時半。思い詰めた目をした男が 来た。26歳、自営業だと名乗った。仮にAさんとしておく。

「女の人とセックス したり結婚したりする気になんて、とてもなれない。医者だから、まさかこんなデタ ラメやってるなんて思わないじゃないですか」

「包茎治療」の手術を受け、醜い傷跡 が残った、という訴えを聞いていた。彼は、「口で言うよりその目で見てください」 とやおら立ち上がってズボンを下ろした。

痛々しい傷だった。亀頭の根元を、ミミズ のような黒い傷跡がぐるりと巻いている。そこに縫合跡らしい切り込みがギザギザ模 様を刻んでいる。

「家族にも相談できないし、交通事故で病院に運ばれたらどうしよ う、と思います。医者にカネだけやったようなもんです。しない方がよかった」

そう 言うと、彼はがっくりと肩を落とした。

高校生のころから、自分は包茎ではないかと 気になっていた。金をため、誰にも内緒で都内の病院で手術を受けたのは九三年春。 病院は、オートバイ雑誌の広告から選んだ。料金が十二万五千円と安めだったのと「 傷跡を残さない」とはっきりうたっていたからだ。

変だと気づいたのは、手術の傷が いつまでたっても消えなかったからだ。一年後、その病院に抗議。無料で再手術を受 けたが、今度は抉られたような傷が。困り果てて駆け込んだ別の病院で、「皮膚を切 りすぎていてこれ以上は手術できない」と告げられた。さらに聞けば、彼は本来は手 術の必要がない仮性包茎だった。

「男の誇り」を傷つけられたためだろう。気の毒な くらい萎縮している。長く彼女もいない、と言う。

昨年一月以降、三回手術を繰り返したあげくに傷跡が治らず、 縁談が破談になったのは岩手県在住の公務員Bさん(29)だ。そもそも手術を思い 立ったのは、お見合いを控えていたからだ。亀頭にある小さなぶつぶつを治しておこ うと思った。Aさんと同じように、雑誌の広告を見て都内の病院を選んだ。やはり「 傷跡を残さない」とはっきり記していたからだ。

車で片道九時間。診察台に寝ると、 医者はこう言った。

「これは包茎ですね。包茎を治さないとぶつぶつも治りません」

そのまま手術。ぶつぶつの手術だけなら三万円と聞いていたのに、結局十五万五千円 取られた。

手術して三日目には異常が現れた。勃起すると、陰茎がひきつって激痛が 走るのだ。測ると、勃起時に十二センチあったのが七センチになっていた。我慢でき ずに、三月、十一月と勤務の合間に上京して再手術。無料だったからいいが、傷や痛 みは一向に良くならなかった。

Bさんも、傷を見せてくれた。Aさんと同じだった。 どす黒いみみず腫れに、縫合跡がでこぼこに刻まれている。職場では、同僚と入浴す る機会が多い。傷を見られるのが怖くて、数日間風呂を我慢したり、人気のない時を 見計らって入ったり。

縁談は、破談になった。

「すべてに自信がなくなり、デートし ても話が弾まなくなってしまったんです。向こうから断ってきました」

Bさんは涙声 になった。「元に戻してほしいです」

取材に応じてくれた被害例はまだある。九二年七月に福岡市 の病院で手術を受けた宮崎市のCさん(25)も、Bさんと同じように勃起すると激 痛に襲われた。朝は激痛で目が覚める。苦情を言っても、「そんな前例はありません」 と言われるばかり。手術当時は浪人していたが、大学受験はどこもうまく行かず、結 局進学をあきらめた。

「もう受験どころじゃなかった。すべてに意欲がなくなって、 もう人生終わりだ、と思ったんです」

激痛はその後三年ほど治まらなかった。Cさん はいま、病院を相手取って民事訴訟を起こす準備をしている。

東京都のDさん(二〇) も、AさんやBさんのような醜い傷跡が残った例だ。九二年冬にアルバイトの金をた めて都内の病院で手術を受けたが、一年経っても傷跡が消えない。しかも縫合糸が中 に残っていた。結局、三年後にまた十三万円を払って別の病院で再手術を受ける羽目 に。

「悩んでいるから、医者の言うことを信じちゃったんですよ。文句言いたくても 場所が場所ですし」

こうした被害例は、氷山の一角に過ぎないようだ。

「他の病院で 受けた傷の再手術は、二年間に百例前後はあった」

高校生向け雑誌に包茎についての 教育記事を書いている泌尿器科医の平野功さんは、そう言ってカルテの束を出した。 厚さ二センチはある。みみず腫れ、勃起時の激痛、陰茎がツートンカラーになった、 というのが主な例だ。

「栃木、福島など、被害は全国に広がっている。雑誌に派手な 広告を出している病院が多い」

取材した被害者には共通点があった。雑誌広告を見て 手術を決心し、病院を選んだことだ。この「包茎治療病院」の広告は、実は十年前か ら問題になっている。日本雑誌広告協会の櫻井一彦参事は、次のように説明する。

病院の広告は原則的に医療法によって禁じられている。名称、 診療科目、住所などが例外的に認められているにすぎない。昨年十月に東京都が同協 会にあてて出した「美容医療等の広告の適正化について」という要望書によれば「各 種クレジットあり」「二十四時間無料案内テープ」「全員男性スタッフなので安心」 などの表現は「不適切」とされている。医師の出身大学を宣伝したりするのは医療法 違反。だから、こうした病院の雑誌広告は書籍の広告や一般記事の体裁を取ることが 多い。また、協会に入っていない雑誌社は自主規制の対象外だ。

取材した被害者が手 術を受けた病院のうち、AさんとBさんが「山の手形成クリニック」。Dさんは「東 京上野クリニック」だ。

「山の手」に取材を申し込んだところ、対応したのは「美高 商事」という有限会社の小野一美社長(36)だった。名古屋、新潟、仙台など全国 六カ所の「分院」の経営は各院長が責任を持ち、同社は収支から医療部分以外の事務 費や人件費部分を担当している、との説明だった。

例えば、クレジットカードによる 手術代金の支払いは同社が扱う。広告事務を引き受ける関連会社もある。小野社長は 元薬剤師。九〇年にこの事業を興した。特徴的なのは、社長が病院を「ビジネス」と 形容することだ。

――なぜこんな苦情が出るのか。

「手術のレベルは高いと 思うが、100%はない。オペする医師も人間だし体調もある。でもそこまでひどい 例は初めて聞いた。この業界では真面目にやっている方だと思っていたので残念だ」

――手術の必要がない仮性包茎の患者に手術をしていますね。

「基本的には仮性包茎 には手術は必要ないと認識している。この治療はコンプレックスの治療のようなとこ ろがある」

――誇大広告は法律違反では。

「胸を張って良いとはいえないが、我々は ベンチャーであり過渡期の事業だ。ベンチャーにはどこかいかがわしさがつきまとう。 医療法自体も時代にマッチしているといえるのか」

「ビジネス的に冷たい言い方をす ると、患者が要求するものを解決する、という行為は保険診療とは違う。期待を満足 させられないのはサービス業として失格だが」

――手術数はどれくらいか。

「医師一 人が月に150例くらいでしょうか」

次に、東京上野クリニックの桑満おさむ院長(35)。

――苦情にどう反論しますか。

「反論はないです。私が院長になったのは93年11月で、前任者のころから手術レベルは向上している。当時の技術ではそれで 限界かな、と」

――どう対応しますか。

「満足しなければ何度でも来てください。再 診はただですから」

――傷跡を残さない、という広告は虚偽ですね。

「(雑誌をのぞ き込み)これは糸目を残さない、という意味。代理店まかせでね。すぐ修正します」

――手術は必要ない人もいるが。

「僕としては治したいという人を治しているだけ。 美容整形やダイエットもそうでしょ」

――何人くらい手術するのか。

「(電卓をはじ いて)僕一人で年千人くらいでしょう」

「山の手」は四十誌、「上野」は二百誌に広 告を出している、という。主に自動車、アダルト、パチンコ、漫画雑誌など。広告費 は山の手が年三億から四億円、上野が「年十億に近い数字」という説明だった。

今回 取材した被害者たちには、共通した特徴があった。手術時間が実質十分から十五分と 短いことだ。

確かに、包茎手術は簡単に見える。ズボンの丈詰めを考えれ ばいい。余っている分を円筒状に切り、先端部の皮と縫合する。切って縫うだけであ る。が、実際にはかなり熟練した技術を要する。

「切らずに治す包茎治療というのは ありえないし、切れば必ず傷跡は残ります」

そう話す日本美容外科学会の平賀義雄理 事長は、次のように説明する。切る場所を亀頭の陰にするとか傷を目立たせない工夫 はできる。背中側と腹側では皮膚の伸縮が違うから、切る長さを変える。つまり、一 人ひとりデザインを変えて手術をしなければならない。どうしても一人一時間はかか る。

「たくさんの患者をこなそうとすれば、手術時間は短くなる。医療としてやって いるか企業としてやっているのかの違いでしょう」

いうまでもなく、一般の病院の泌 尿器科や形成外科でも包茎の手術を受けることはできる。が、一般病院にとって包茎 手術は割に合わない。保険を適用すると、公定の診療報酬は三万円。手術室をふさい で医師や看護婦を動員すれば、コストがかかりすぎる。

偏見もある。取材で泌尿器科 の教授にコメントを求めても「包茎なんかに関わりたくない」とあからさまに拒絶す る人がいた。

包茎で悩む人は、人に相談することは希だ。他の病気と違って情報が極 端に少ない。取材した被害者も、雑誌広告が唯一の情報源だった、という話をしてい た。

そこに、やれ早漏になるとか、やれ包茎は男の恥とかの俗説が飛び交う。「包茎 治療」は、この情報の空白に乗じた不安商法ではないのか。

【仮性包茎と真性包茎】

亀頭が皮で覆われていても、手で剥けば亀頭が出る場合や、 勃起すれば露出するケースを「仮性包茎」、それ以外の常に亀頭が覆われた例を「真 性包茎」という。医学的に手術をして治療する必要があるのは、真性の場合のみ。仮 性包茎は必ずしも手術の必要はない。

「恥垢がたまって不潔」という俗説があるが、 風呂で皮を剥いて洗えばそれでいい。真性包茎は保険診療の対象内だから一般病院で 「包茎専門病院」よりずっと安く手術が受けられる。

(AERA 96.2.26 )





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