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from New York
ミューチュアル・ファンド急成長の主役 米国最大手のフィデリティ社
米国の株ブームをミューチュアル・ファンドが支える。情報開示と個人投資家保護の原則が、人々を株に引きつける。 そのうえで、リスクを理解する意識も生まれてくる。


 
 
  
 ニューヨークから飛行機で一時間。米国最大のミューチュアル・ファンド(MF)会社というから、ウォール街にあるものだとばかり思っていたら、「フィデリティ」社の本社はボストン市にあった。高層ビルの窓から、チャールズ川対岸にあるハーバード大学が見える。


 その総資産額を円に換算すると約七十兆八千六百三十億円。日本最大の証券会社・野村証券(十一兆三千八百八十一億円)が、遠く及ばない巨大企業である。


 同社を急成長させたのは「マゼランファンド」というMFだった。三年間で二四・六%の実績をあげたこのMFは九五年までに百万人に売れ、投資総額は六百三十億ドルに。六千八百種類あるMFの中でも最大級の横綱商品である。


 「野球で言えば、六割か七割打者でないと務まらないのがこの仕事です」
  
 ○顧客は株主と同じ権利
 同社のウィリアム・エブスワース副社長(41)は言う。八六年から四年間、東京支店で太平洋地域のファンドマネジャーを務めた経験がある。


 経営者へのインタビューがこの仕事の命だ。だから彼はネクタイもスーツも着ない。成長しそうな企業をライバル社より早く見つけて投資するのが仕事である。


 会計学や財務分析などの専門知識はもちろん、現地語で新聞を読みインタビューする能力を求められる。大半は一流ビジネススクールの修士号を持つインテリである。


 自分が設計したファンドが高い利回りを生めば、数千万、数億円レベルの年収も夢ではない。一方で、MFの格付け会社も十数社ある。七段階の「成績」をインターネットや雑誌で公表している。競争は激しい。


 米国でMFがこれほど急成長した背景には、個人投資家が手厚く保護されていることがある。


 MFは、法律上一つひとつが株式会社の形を取る。取締役会もある。六人のうち四人は社外取締役でなければならない。MFを買った客は、株主総会への出席や収支報告、取締役会の議事録の開示など株主と同じ権利が保証される。情報開示は徹底している。
  
 ○出生祝いに国債を贈る
 フィデリティ社も個人投資家を中心に発展した会社だ。一日に約四十三万件かかってくる問い合わせ電話に二十四時間対応するために、三千人の受付を置いている。


 リスク開示もきちんとしていた。


 「一九二九年の大恐慌級の暴落が起きたら、あなたのファンドはマイナス七〇%ですね」


 試しに同社の支店へ行ったら、担当者がパソコンの画面でそんなシミュレーションを見せてくれた。


 客もリスクは理解しているようだ。たとえMFで損しても誰もとがめない=六〇%。損失補填を求めない=八〇%。九四年の世論調査では、そんな結果が出ている。


 米国庶民の株や債券に対する親近感は、日本人には想像しにくいほど強い。


 子供が生まれると、少額の三十年国債をプレゼントするのはよくある風習だ。小学四年から高校生を対象にした株ゲームの全国大会というのもある。年二回開かれ、毎年六十五万人もの子供が参加する。優勝チームにはウォール街旅行と賞金三百ドルが贈られる。


 「米国企業は株式発行で資金を調達する伝統が強い。日本企業は銀行からの融資で発展した。社会の中での株式市場の地位がまったく違う」(日米両国の事情を知るあるファンドマネジャー)


 九二年に開設二百周年を迎えた時、NY株式市場が出した声明が、その「地位」について語っている。


 「我々はすべての市民が企業経営に参加するオープンな受け皿となる。企業はここから資本を調達して技術革新や生産拡大に励む。それが市民の生活向上に寄与する。NY株式市場は、米国民主主義の重要な担い手である」


 庶民が株を買うのは社会全体の利益になる、という発想だ。個人投資家を裏で「ドブ」と呼んで軽視してきた日本の証券界とのあまりの違いに愕然とした。

(AERA 1998年11月16日)





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