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from New York
米が踏み込んだ地雷 レアル切り下げショック
ブラジル通貨切り下げで、好調を続ける米国経済の足下がふらついた。「経済のグローバル化」で、米国経済は世界中に地雷原を抱える。

 

 
 一九九七年のアジア通貨危機や昨年のロシア危機に比べると、ブラジル通貨危機に対する米国政府の「火消し」は驚くほど早かった。


 「出火」は一月十三日。ブラジル政府が通貨レアルの切り下げを発表したことだった。NY市場では、対ブラジル融資を抱える銀行株を中心に売りが殺到、ダウ平均株価は一二五・一二ポイント下落。十四日も二二八・六三ポイントと、下げは止まらなかった。


 あわやブラジルの危機が飛び火かと思われるや、米財務省高官はマラン・ブラジル蔵相らとIMF幹部を交えてワシントンで会談。内容は明らかにされていないが「レアルの固定相場制をあきらめ、外貨準備を無駄遣いしないよう警告した」と報道されている。


 ○米異例の大盤振る舞い
 米国当局が恐れた最悪のシナリオはこうだ。


 固定相場制維持のためにブラジル当局がレアル買い介入を続ける↓外貨準備が底を突く→対外債務を返せなくなる→債務不履行(デフォルト)宣言に追い込まれる→昨年八月のロシア危機の再来。


 実際、ブラジルの外貨準備は底が抜けたように減っていた。昨年夏には七百億ドル強あったのが、ロシア危機のあと半分以下に激減。切り下げ後も固定相場制維持のために一日十億ドルも使うという異常事態が続いていた。


 米国当局は早い段階で予兆を掴んでいたようだ。昨年十一月にIMFが用意したブラジル向け四百十五億ドルの緊急融資は、米国政府が五十億ドルを出している。十億ドルの国連分担金さえ出し渋っている米国としては異例の大盤振る舞いだ。


 ○楽観ムードに疑問の声

 米国が神経質になるのには理由がある。米国の銀行には、ブラジルに対して百八十六億ドルの貸し出し残高がある(昨年九月)。これは途上国向け融資全体の一三%だ。ブラジルの株・債券などに対する投資が百八十二億ドル(九三年からの五年間累計)。九〇年代に国営事業の民営化を進めたブラジルは「新興市場(エマージング・マーケット)」というキャッチフレーズで一般投資家にも人気が浸透していることが背景にある。


 かくて米国は、ブラジルの対外債務八百四十六億ドルのうち二五%を占める債権国ナンバーワン。ブラジルが債務不履行に陥れば、他の南米経済への波及も必至。ロシア危機の比ではない「壊滅のシナリオ」になるところだった。


 ところが、十五日にレアルが事実上の変動相場制に移行、ブラジルの株価がやや回復したとたん、NY市場には奇妙な楽観ムードが流れ始めた。二十日に、IMF融資の条件になっていた財政赤字削減のための法案がブラジル下院で可決されたことも拍車をかけた。こんな強気の発言も飛び出す。


 「ブラジルを含め、外国からのリスクはまったく心配していない。米国の金融システムは堅調だ」(二十日、NY連銀のウィリアム・マクダナフ総裁)


 この楽観ムードに、専門家は一様に首を捻っている。「市場は、一過性の危機と誤解しているとしか思えない」


 ソロモン・スミス・バーニー証券のエコノミスト、トマス・トレベット氏は言う。


 「今年のブラジル経済は良くてもマイナス五%の成長に失速、政治問題化するだろう。対外債務を返せるのかという懸念も間違いなく再燃する。まだ危機的状況の入り口に立ったにすぎない」


 その指摘通り、二十一日にはレアルの対ドルレートは一・七五にまで下落、今も投資の引き上げと外貨流出という「出血」が続いていることを示している。


 レアル下落に逆らって海外からの投資をつなぎ止めるには、高い金利を維持するしかない。が、公定歩合三六・五%という現在の高金利では、国内経済が窒息してしまう。ブラジル政府当局にとって綱渡り的な状況に変化はない。


 振り返ってみると、危機の発端も地方州の債務不払い宣言だった。米国経済の命運をブラジルが握るという、誠に奇妙かつ厄介な事態になった。

(AERA 1999年02月01日)





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