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衛星放送の威力
日本では無名の衛星放送「スターTV」が東アジアの若者を激変させつつある。小室哲哉氏もビジネスで提携している


台北のホテルで、おもしろいテレビを見た。MTVに似たミュージック・ビデオ局だ。ビデオ・クリップが次々に流れる。香港のスーパースター・劉徳華のセクシーなビデオのあとは、なんだかそこら辺のあんちゃんみたいな台湾の新人男性ポップデュオ「無印良品」。続いて米国のグランジバンド、スマッシング・パンプキンズの轟音。かと思ったら、いきなり日本の「ドリーム・カム・トゥルー」の三人がインタビューに登場。合間にハングル語でデートクラブのCM。香港だろうと台湾だろうと日本だろうと、とことん順不同、国籍関係なし。まったくのチャンポン状態である。

これが、香港に本社を置く衛星放送局「スターTV」の二十四時間音楽専門チャンネル「チャンネルV」だった。東アジアはもちろん、西はエジプトから、東は日本まで。推定視聴者は約二億二千万人。「スターTV」は、この莫大な地域に電波を降らせる巨大メディアなのだ。

東アジアでの使用言語は、中国語圏の標準語である北京語。香港など広東語圏の視聴者のために、画面下に漢字の字幕が出る。本土中国とインドと、二つの中心によって二系統の「ビーム」を持つ。インド地域ではヒンドゥー語と英語が使われている。

その影響力で一躍東アジア全域でスターになった人物に、呉大維(デビッド・ウー)氏30がいる。数本の香港映画に出演した程度の駆け出し俳優だった呉氏は、チャンネルVのおかげですっかり有名になった。
「いや驚いたね。映画の撮影で中国へ行ったら、北京でも上海でも知らない連中に『おい、お前の番組見てるぞ』とか言われるんだもの。ロシアからもファンレターが来るんだよ。英語がめちゃくちゃで読めないけど」
呉氏は「チャンネルV」のビデオ・ジョッキーを四年半勤めている。アメリカで中学から大学までの教育を受けた台湾の「帰国子女」だ。ビデオの紹介や合間のお喋り、ゲストとのトーク番組やスラング英語の紹介など四本のレギュラーを担当している。台北や香港の音楽通の間では知られた顔だ。
「スターTVは、東アジアのポップカルチャー市場が一つになるきっかになったと思うよ」
呉氏はそう分析する。スターTV以前は、香港にしろシンガポールにしろ、各国はばらばらに孤立した音楽市場だった。が、スターTVはその国境の壁をぶち壊し「ごちゃ混ぜ化」を進めた。
「だって、いい音楽はどこでも誰でも楽しめるようにした方がいいでしょう?韓国人も台湾人もバラードが好きだし、シンガポールも香港も、中国語圏の音楽の趣味は似ているんだから」

スターTVは九一年に設立された。「チャンネルV」は、メディア王マードック氏が五〇パーセントを出資。残りをソニー・ミュージック・エンタテインメント(日=SME)、EMI(英)、ワーナー(米)、BMG(独)と世界の四大音楽企業が等分で出資している。このチャンネルの強い影響力を知ればこそ、である。

チャンネルVは毎月「アーティスト・オブ・ザ・マンス」(その月の推薦アーティスト)を選ぶ。最初はマイケル・ジャクソン。ケニー・G、張学友、エア・サプライなどと続き、九七年一月にはついに八人目にして初の日本人が選ばれた。安室奈美江である。
これに選ばれると、ビデオクリップが重点的にオンエアされるほか、アーティスト自身のインタビューも流れる。

「我々が『アーティスト・オブ・ザ・マンス』に選ぶと、アジア圏での売り上げは二倍になります」
三七歳の若さながら、チャンネルV音楽部長・ジェフ・マーレー氏の香港のオフィスには、世界の音楽産業のVIPが面会に訪れる。「推薦アーティスト」決定権限を持つキーパーソンだからである。

日本人には興味深い話がある。かつてSME社員として東京で働いたマーレー氏には「TK」というニックネームの日本人の友人がいた。売れっ子ミュージシャン兼プロデューサーのTKは、日本で次々に数百万枚のメガ・ヒットをチャートに送り込んでいた。
ある日マーレー氏は考えた。このTKの才能と、チャンネルVのオーナーであるマードック氏のメディアの力を結びつけたら、おもしろいんじゃないか。そこで、昨年夏にTKをマードック氏の長男ラクラン氏25に紹介したところ、二人は意気投合。同年十二月六日、二人はロスで記者会見し、共同でプロダクション会社「TKNEWS」を設立する、と発表した。この「TK」とは、誰あろう小室哲哉氏のことである。

同社はすでに始動している。「JSkyB」社は、ルパート・マードック氏とソフトバンク社の孫正義氏が共同で設立した、日本向けデジタル多チャンネル衛星放送会社だ。このJSkyB社が「PerfecTV!」の持つ空きチャンネルを使ってオンエアしようと郵政省に申請している音楽チャンネルに「SkyMusic」がある。このチャンネル、丸ごとTKNEWSの制作なのだ。つまり「小室哲也専用チャンネル」と言い替えてもいい。TKNEWS社の仕事は、レコードのみならず歌番組、音楽ビデオの制作も含むのだ。
マーレー氏は「TKNEWS」社の経営にも参加する事が決まっている。同社とスターTVは形の上では無関係だが、人脈を見る限り、アムロのチャンネルV推薦アーティスト入りは、連動した戦略と見るのが自然だろう。

マーレー氏は、安室奈美江を高く評価している。
「だって、アムロのレコードは台湾で十五万枚売れたんですよ。アムラーになりたがっている女の子は東アジア中にいる。彼女こそ新しいアジア人のアイデンティティ、オリジナリティだ」

アムロのどこをそれほど評価するのか、マーレー氏に尋ねた。
答え。美人だ。衣装がいい。ファッション。イメージ。陰のない、明るく気持ちの良い音楽。若者に連帯感を与える。ポジティブ。アムロのようなダンス音楽は九七年のチャンネルVの「主力商品」でもある。

良い悪いは別にして、テレビメディア上では、ファッションやダンスなど、見せる要素の重要度が上がり、曲や詞の重要度は下がる。チャンネルVのようにいくつもの文化圏を跨ぐメディアでは、特にダンス音楽は魅力が高い。
スターTVが将来の主な市場と考えているのは、いうまでもなく本土中国だ。中国での「ヒット」とは、カセットテープが一億本単位で売れることを指す。日本では巨大ヒットと言っても百万枚単位。ケタが違う。東アジアの音楽市場で、スターTVの影響力は途方もない規模に成長するだろう。

(AERA97.1.20)




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