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女子高生をゲットせよ!
女子高生が騒ぐと必ずヒット商品になる、どうもヘンだ、と思ってたら、やっぱりいた。高校生相手に宣伝やマーケティングをする企業があったのだ。学校を舞台に、化粧品やポップス、お菓子の宣伝合戦が繰り広げられている。


都内の私立高校に通うユカリさん16の家に段ボール箱十箱の「バイト道具」が届いた。シャンプーとリンスのサンプルセットが千個。「日本リーバ」社の人気ブランドの新製品、しかも発売前の品物。ここがミソである。

彼女の「バイト」は、このサンプルを学校で友達に配ること。つまり「宣伝」だ。先生にもあげた。PHSやポケベルの番号を押さえた知り合いが学校外にも二百人はいるから、そこでも配る。アンケート三十枚を返送して、バイト料は五千円。大変そうだが、ユカリさんは楽しくて仕方がない。「へー、珍しい」と言われる瞬間が優越感をくすぐるのだ。

「おもしろいモノを持っていると、話のネタになるんですよね。流行りを追いかけている人みたいで嬉しいです」

埼玉県の女子高生アイコさん17の場合は、チョコレートだった。発売前の製品が段ボール箱で送られてきた。箱の中にはご丁寧にも「想定問答集」のプリントが。

「ねえねえ、聞いて聞いてー」
「これ新発売の××チョコなんだけどー」

ダサイ口調に笑いをこらえながらも、二日で五十個を学校で配った。クラスに四十六人いるから、楽勝である。感想を葉書に書いて返送、バイト料は三千円。彼女もこのバイトが好きだ。

「だって、発売してないんですよー。『これ、新製品なんだけど』と言う瞬間がキモチ良い。業界人みたいな雰囲気を漂わせられるじゃないですか」

彼女たちにこんなバイトが回ってくるのは、二人が「高校生ネットワーク会社」に登録しているからだ。高校生を組織して、商品の宣伝をしたり、開発に知恵を貸したりする「ブーム作りのプロ」だ。都内にそんな会社が数社ある。

「私たちは高校生のプロです」
「ティーンズネットワークシップス」社長の森田浩章さん27はそう言う。同社の得意技は高校生の「口コミ作り」だ。製品を高校生に渡して、そっと告げる。

「これ、内緒にしといてね」
「発売前なんだ」
「君だけにしか渡さないからね」

これで確実に話は広まる。口コミが成功すれば「流行り」としてマスメディアが飛びつく。同社には「何かネタない?」式のテレビの取材・問い合わせが多いから、仕掛けは簡単だ。

同社が組織する高校生は二千人ほど。まず東京・千葉・埼玉・神奈川の三百校に一人ずついるメンバーに、情報を投げる。一校千人の生徒がいるとして、うまくいって三十万人。普通でも十万人に情報が広まる。森田さんはそう計算してみせる。
「まず、人に教えることの優越感を付与するわけです。そうやって口コミの初期段階を作って、さらにテレビにも乗せる。一種のメディア・ミックスですね」

企業側はこうした「仕掛け」を認めたがらないが、こうして手がけた商品は八年で百件にもなる。お菓子や化粧品が多い。宣伝だけではない。商品の名前や、パッケージ・デザインもアイディアを出す。大手予備校のテレビCM案を三案の中から選んでもらったこともある。

ダンス音楽を数百万枚売って業界の大手にのし上がった某レコード会社は、どの曲をシングルカットするか、歌手にどんな服を着せるか、までリサーチを依頼しているそうだ。

「売れている、という状態を作り出すことだってできます」

「主婦の友社」が九六年三月に創刊した高校生向け月刊ファッション雑誌「Cawaii!」は、こうして成功した例だ。登場するモデルは全員高校生。写真に必ず学校名・学年と氏名が入る「読者参加型マガジン」だ。この雑誌が創刊されたとき、森田さんはこんな「指令」を出した。

まず、五百人の高校生に五百円を持たせる。朝起きたら、この雑誌を買い、昼休みに学校で読むべし。「それ何?」と尋ねられたらこう答えるべし。
「新しい雑誌だよ」
「今日発売だよ」
「××君が出ているよ」
指令はさらに細かい。必ずコンビニで買うべし。在庫管理データが上がり、コンビニ会社に優遇してもらえるからだ。

こうして「cawaii!」創刊号は二十五万部を完売。「人気雑誌」としてすぐに認知され、現在も発行部数は公称三十万部。高校生という限られた層を対象にした雑誌としてはお化けヒットだ。
「宣伝はほとんど打たなかったのに、ここまで売れるとは嬉しい誤算です。口コミはテレビCMよりコストパフォーマンスが高い」
荻野善之編集長37はそう言う。

宣伝費が安く済むのは、不況で宣伝予算が削られている企業には特にありがたい。
こんな手法がある。これから売り出そうとしている音楽のテープやCDを高校生数十人に渡し、それぞれの校内放送で流してもらうのだ。昨年、突然変異のようにヒットして泡のように消えたイギリスの十代ギャル二人組「シャンプー」。相川七瀬の「夢見る少女じゃいられない」。そんな手法を使って成功した例だ。

「何度も何度も聞かせて、自分で買いたいと思うまで落とし込む。耳にする頻度が上がるほど認知度が上がる。校内放送も、有線放送と同じ媒体のひとつです」
ある大手レコード会社の宣伝課長はそう話す。洋楽も邦楽も、主なレコード会社はどこもこの手法を使っている。校内放送の方が、テレビやラジオのヒット番組より早くヒットソングがかかるというヘンな現象が起きている。

高校生の人口比率は、全体から見れば小さい。そのグループへの売り込みに、企業がこれほど必死になるのはなぜか。その理由を、高校生ネットワーク会社「ブームプランニング」社長の中村泰子さんはこう説明する。
「女子高生は『起爆剤』になる要素を持っている。好奇心が旺盛で、しかもお喋り。社会から見れば小さいけれど、商品を流行らせる力があるんです」

明治乳業が出した「烏龍爽茶」という飲料がある。ウーロン茶に口臭を消す成分が入っている。少ない宣伝予算でサントリー、コカ・コーラなど先発企業が制圧するウーロン茶市場に食い込むことに成功。九七年度は五十億円の売り上げを見込んでいる。

初めの狙いはエチケットにうるさそうなOL層だった。が、途中で方針を転換。缶のデザインに彼女たちの意見を採り入れ、キャッチコピーも「息に気遣う」からより直接的な「息さわやか」に変えた。もちろん、学校へ持ち込んでもらう手法も怠らなかった。

売り出してみたら、意外なことが分かった。主婦が大きなお得意様になったのだ。女子高生が気に入ると、母親にねだって買わせるからだ。主婦が買えば家の冷蔵庫に入る。するとオヤジさんも飲む。「伝播力」が強いのだ。

もう一つの意外な効果は「女子高校生の間でブーム」と聞きつけたマスメディアが、一斉に飛びついたことだ。女子高生の間で何が流行りなのか、テレビ・雑誌などは鵜の目鷹の目で探している。CMを買わなくてもメディアに乗るから、企業にとってはありがたい。

「テレビの取材が二十か三十件あったでしょうか。女子高生は『媒体』としての価値が高い。大きくマーケットを広げるためのエンジン・スターターです」
明治乳業・飲料マーケティング部の大戸康生さん31はそう振り返る。

バブル経済真っ盛りの八〇年代、世間の流行を作るリーダーは大学生やOLだった。が、九三年ごろ大学生・OLは没落。今や主導権は女子高生だ。なぜ、こうなったのか。

高校生は必ず毎日教室で五十人の仲間に会う。さらに、他の学校の友達やバイト・塾の仲間が加わる。大学生はせいぜい一日十人。会社員に至っては、もっと少ない。「口コミ」の威力が比較にならないくらい大きい。
「今の高校生は生まれた時からコンビニがあって、モノが溢れ返っている中を育っている。逆に、大学生・OLになると、もう消費に疲れて飽きてしまう」
「ブーム」社長の中村泰子さんはそんなふうに見る。

女子高生は、横並びで一斉に動く日本社会最後のグループだ。そう見るのは、博報堂生活総合研究所の関沢英彦所長だ。

かつて日本社会は「十人一色」の大衆社会だった。それが「十人十色」の「分衆社会」に解体、さらに最近は「一人十色」の「個」にまで解体している。大学生以上の大人の世界では、もう多様化が進んで「ブーム」が起きない。関沢所長はそう見る。企業にとって高校生は「ブーム」という金脈を持つ最後のフロンティアなのだ。

(AERA 97.05.26)





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