(撮影:渡辺 誠) |
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「ロビンソン」「涙がキラリ☆」などスピッツのヒット曲を書いているのがこの人。孤独で内省的な歌は、聴く人を異世界へと誘う。穏やかな、線の細い青年でした。インタビュー全文も掲載。 |
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不思議な人だ。30歳。髪には白髪がちらほら。なのに、歌そのままに高く澄んだ声も、少し不安げな眼差しも、少年のようだ。成長するのを忘れたようにさえ思える。 どうしてあなたの歌はこんなに売れるのでしょう。そう問うと、両手を膝に置いたままじっと考え込んだ。 「僕って、本当に冒険できない性格なんですよ。ぐずぐず考えちゃって」 黒縁眼鏡の奥で、雌鹿のような瞳が弱々しく笑っている。 「みんな冒険したがっても、日常の中ではちょっとしかはみ出せない。歌の世界でだけ、ちょっとトリップしてみるか。そんな僕自身の姿が共感されるのかもしれない」 あなた自身の姿、ですか? 「僕ね、子どものころ『眼中にない君』だったんですよ。今でも『仲間外れ恐怖症』ですぐ落ち込む。イヤなんですけど」 勉強も運動もぱっとしない。地味で目立たない。僕って、一体何なんだろう。ギターを習って歌を作り始めたのも、そんな自分から脱皮したかったからだ、という。 「どっか違う世界、違う道はいっぱいあるはずだ。いつも探していた。ドロップアウト願望はすごく強いのに、できなくて」 目が、時々ふうっと遠くへ飛んでいる。 草野少年の好きな遊び場は、空想の世界。友達はペットのスズムシや熱帯魚だった。今も、地図や本を読んでは異国や太古の人々の暮らしを空想するのが好きだ。 そのせいだろう。彼の歌にはいつも不思議な「ものたち」が次々に現れては、聞く者を異世界へと誘う。子犬、コウモリ、猫。チェリー、梅干しに超新星。行く先は異国だったり宇宙だったり空だったり、時には死の世界だったりする。 君に会いたい。かわいい年月を君と暮らせたら。そう呪文のようにくり返す。浮かんで消えるガイコツが恋のリズムを鳴らし、二人の思い出はすべて幻と消える。不吉で、儚いラブソングである。 「俺って、モノが集められないんですよ。どうせ死ぬんだし、と思うから。どうせこの世は仮住まい。ははは」 目が笑っていない。視線は窓の外の清潔な街を行き交う人々を追っている。 この国って、生命の匂いがしない無臭な感じですよね。おれ、CDもテレビも相対性理論も、仕組みが理解できないうちに死ぬんだろうなあ。そう思うと悲しくなったりして。 また死の話である。少し心配になってきた。孤独と死をこれほど身近に感じている男の歌が百五十万枚も売れる国の若者って、一体何なのだろう。 「援助交際って分かる気がする。だって、カネがないと人と同じになれないから…」 そう言って、しばし言葉を切った。 「でも、ナイフ振り回して先生刺しちゃう中学生って、おれ分からない。きっと何にも見えなくなっちゃうんだろうな…」 外では夕闇が迫っていた。彼の次の言葉を待っても、その目はもう闇の向こうのどこか遠くを見つめていた。 ●くさの・まさむね 1967年12月21日、福岡市生まれ。本名は正宗。父はサラリーマン、母は主婦。弟と妹がいる。 育った新興住宅地はウシを飼う農家が残る自然豊かな土地。植村直巳や本多勝一の本を読んで探検家に憧れたり、漫画家になろうかと考える少年だった。中学1年のころ、家にあった母親のアコースティックギターを弾いたのが音楽に入るきっかけ。高校時代はスターリンやブルハーツなど日本のインディーズバンドに傾倒、前後して作詞・作曲を始める。 東京造形大学に入学して上京、後に武蔵野美術大学に移る。在学中に「スピッツ」を結成。ギターとボーカル。大半の曲を一人で書いている。 91年 アルバム「スピッツ」でデビュー。 同年 「名前をつけてやる」。 92年 「惑星のかけら」 93年 「Crispy!」がヒット。知名度が上がる。 94年 「空の飛び方」 95年 「ハチミツ」 96年 「インディゴ地平線」 98年3月 新アルバム「フェイク・ファー」。 「ハチミツ」「インディゴ地平線」は150万枚を売る大ヒットになった。特に二十から三十歳前後の世代に人気が高い。代表曲に「涙がキラリ☆」「ロビンソン」「チェリー」「渚」など。 (AERA 98.4.6) |
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