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■エレファントカシマシ・宮本浩次 「ロックは日本国という曖昧なルールと戦う武器。リアルな現実をサウンドに乗せたい」

 



 日本にはロックなんてありゃしませんよ。だって攻撃目標が見えないんだもの。私一人でもロックを体現しようと一人緊張しているんです。


 四月、私が出した「ガストロンジャー」という曲が、あるテレビ局から放送できないと言われましてね。「人の良さそうな変な奴がのせられて偉くなっちゃって」という一節が小渕恵三前首相を連想さおるっていうんです。あの人が倒れる前ですけどね。「神風のように猛然と追いかけた」の「神風」もダメなんだそうです。


 「あんな人が総理大臣かよ」「おいおい、また小渕の代わりかよ」「日本の現状は憂うべき状況とも考えないけど、素晴らしいとは絶対思えないな」「それでもそこそこ俺たちは生活してんだから訳わかんねえよな」


 みんな、三十代の日本人が普通に共有し、感じている「現実」ですよね? 日常会話と同じですよ。それを、怒りもなにもなく、すーっと素直に書いて喋るように歌っし。そんな「リアル」なことをロックという形に乗せたら、豪快なインパクトがあって自分でも驚いた。素朴で日常的な内容でも、サウンドに乗せると「本質」を見せてくれる。それが私にとってロックが武器たる所以なんです。音楽ってすげえなって思います。


 でも、別に小渕さんをやっつけたいわけじゃない。そんなことをしてもしょうがない。私は「日本国というルール」と戦っているつもりなんです。日本という国土が持つもやもやとした憂鬱、島国に生きる絶望感って言うんでしょうかね。よく分からない「常識」ってのが支配していて、それに従うことが良き人生ってことになってる。物事を明確にしない。対立点が見えない。本気で将来はタレント議員に立候補しようかと思いますよ(笑い)。そういう風穴がないと息苦しくてしょうがない。


 そこでは、私みたいにリアルになろうとすればするほど異端になっていくんです。自分の視点を明確にするとドン・キホーテになって浮いていく。この曲を出す前はホントに緊張しました。殺されるんじゃねえか、刺されるんじゃねえかって。


 アメリカには人種対立とか目に見える争点があって、それを題材にした音楽が人々のアクションを起こしたりする。七〇年代イギリスのパンクロックだって当時の英国人のある部分にはリアルだったんだと思います。


 でも、よその国に憧れてもしょうがない。私は今の日本人にとってリアルな歌を送り出したいんです。「ガストロンジャー」はどうなるかと思ったら五万枚も売れて随分勇気づけられましたけど、もっとレスポンスが返ってくれば、明快に攻撃目標が見えてくるかもしれない。日本を何とかしようという思いが主流になるかもしれない。ウヤムヤ・モヤモヤじゃない日本が生まれるかもしれない。東京都民が石原慎太郎知事を選んだように、明確に意思表示をする人を歓迎する志向はあるはずです。


 でも、そのためにはより多くの人が耳を傾けてくれないといけない。売れないと力もないし、テレビで歌うなって言われるのも当然なんですよね。それが日本国というルールなら、千万枚売れよと自分でも思う。日本国というルールと戦うために日本国というルールの土俵で勝負しなくちゃいけないという矛盾が出てくるんです。私だって「日本国」という曖昧で矛盾したものを抱えているんですね。お恥ずかしい話ですけれど。


 「日本国」という曖昧なルールは、もしかしたら永遠に変わらないのかもしれない。「馬鹿は死ななきゃ治らない」って言うし(笑い)。でも、私自身がそのルールの恩恵と憂鬱を背負いながらそこで生活している。そこでの「リアルなもの」を私は出したいんです。


 はい、かつては私も売ろうと努力した時期がありました。でも、GLAYやミスチルにはかなわない。彼らはテレビに出てタイアップでも何でも歌いまくる。それが彼らの自然なスタイルであり「リアル」なんです。でも私にとってはどっか自然じゃない。イヤなんです。紅白歌合戦で「ガストロンジャー」歌えるとも思わないし。


 だから負ける。向こうの売り上げが二百万枚なのにこっちは六十万枚で止まる。だから売ろう売ろうとするのはやめたんです。その代わり自分にとってリアルなものを打ち出していこうと思った。


 日本国というルールと戦って敗れ果てた人は大勢います。森鴎外も夏目漱石も最高に素晴らしいしカッコ良い敬愛する人物ですが、七転八倒して道半ばにして倒れた。敗れ去ってしまうと「反抗」というカルチャーとして終わっちゃうと思うんです。今も孤立無援で戦っている人はたくさんいますが、それを「ポピュラーなもの」にしていく作業は誰もやってない。それを自分が先頭に立ってやっているつもりなんです。考えを言葉にしてサウンドに乗せてみんなに届けるという意味で、ロックは私の「乗り物」なんです。


 私は金大中(キムデジュン)が韓国の大統領になった時は感激して泣きましたが、金大中方式で執念深くやっていくしかない。政治家や作家が政治や小説で世界とつながっているように、私にとってはロックが世界とつながる方法なんですから。
 

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みやもと・ひろじ ロック歌手 1966年東京生まれ。81年、中学生時代に「エレファントカシマシ」を結成、88年にアルバム「エレファントカシマシ」でデビュー。最新作「goodmorning」まで計11枚のアルバム中ほとんどの曲を作詞作曲している。永井荷風、森鴎外などの作家を敬愛し、散歩と江戸古地図、浮世絵収集を趣味とする。

(AERA 2000年06月05日)





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