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■肉体で音楽を奏でたい 「うたごえ」は本能の逆襲

 



 過日「F・O・H」なるデビュー2年目のバンドのライブを見て、素直に感動しました。この男声3人組、いわゆる黒人音楽系コーラスグループ。バンドをバックに歌うのですが、ドえらいうまかった。「ズンドコ節」にチェッカーズから60、70年代米国ソウルミュージックまで二十数曲、自己流にアレンジして歌う技量には、ふだんJポップの罵詈雑言ばかり書いている小生も脱帽いたしました。


 カラオケを愛する読者諸氏にはご承知のように、歌は意外に難しい。音程、リズムはもちろん、声量、声質、歌詞まで精密に制御できないと聴く側は一瞬でシラケます。しかも、歌はそのすべてを自分の体でコントロールせねばならぬ。その意味で「うたごえ」は「最も原始的にして最も難しい楽器」と申せましょう。


 小生が敬愛する歌い手にヌスラット・ファテ・アリ・カーンというパキスタン人がいました(97年病没)。イスラムの聖者を讃える宗教歌「カッワーリー」のマエストロとして世界中の尊敬を集めた人物です。その3大テノールもマッサオの声量と音域は、まさに天空を突き破り神々に届く声のように聞こえ、来日公演を聴いた小生は席から立ち上がれないほど魂を揺さぶられたものです。公演後、彼にインタビューする機会に恵まれた小生、ちょっと意地悪な質問をしました。「他の宗教の音楽をどうお考えですか」と。ここだけの話、ということで氏は小生の耳元で囁かれました。「ドイツに公演に行ったとき、教会に寄って賛美歌を聴きました。神様に近づきたいという思いから発する歌は、どの宗教でも同じなのだなと感動しました」


 そう「うた」は人間が宗教を覚えた古からずっとあったのです。翻って我が国を見るに、祝詞、謡、古代若い男女が愛を交歓した「歌垣」からダーク・ダックス、内山田洋とクール・ファイブ、今年紅白歌合戦初出場の男声5人組ゴスペラーズ、冒頭のF・O・Hに至るまで「うた」はずっと日本人のそばにあり愛されてきました。


 が、ここ数年、テクノやクラブ音楽など、パソコンなどの機械が音楽を奏でることが主流になりました。その一方、ギターを掻きむしり、全身で絶叫する肉体的なロックやフォークが、路上や小さなライブハウスを舞台に燎原の火の如く広がる有り様も、小生は目撃しています。「うたごえ」の復活は「自分の体で音楽を奏でたい」という本能の逆襲ではありますまいか。

(AERA 2001年10月15日)





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