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■世界の音楽を変えた日本人ここにあり

 

 ビートルズに匹敵する影響を世界のポピュラー音楽に与えた日本人はいるのか? 実はいるのです。カケハシ・イクタロウ。本日ここに筆者は自信を持って彼を推挙いたします。

 そんなミュージシャンいたっけ? いえいえ、梯郁太郎氏(71)はシンセサイザーで世界的に有名な楽器メーカー「ローランド」の前会長。音楽をデジタル信号でやりとりする世界規格「MIDI」の原型を作った人であります。

 MIDIの一番のすごさは、世界中のシンセとコンピューターを接続可能にしてしまったことです。パソコン側にデータを打ち込めば、シンセを自動演奏してくれる。つまり演奏から「楽器を手で弾く」行為を不要にしてしまった(YMOを思い出していただきたい)。いやそれどころか、シンセの自動演奏が録音の主要部分となった今、MIDIなしではレコーディングそのものが成り立たない。なにせ演奏技術を不要にしてしまったのですから、音楽そのものに与えた影響も甚大。MIDIなかりせば、ラップもヒップホップもハウスも不可能です。わが国でいえば小室哲哉も安室奈美恵も生まれ得なかったはず。

 恩恵を受けているのはプロだけじゃありません。通信カラオケは、MIDI信号を電話回線で送り、カラオケマシンの音源チップ内のギターやドラムの音を鳴らす仕組みです。携帯電話の着メロ配信にもMIDIは使われています。

 「本人もこないなるとは思てなかったですよ」

 と柔和な関西弁で語る氏は、驚くべきことに独学のエンジニアです。終戦直後、大阪で20平方メートルの電器屋「カケハシ無線」から身を起こし、大好きな電気オルガンを自分で作るうち、ここまで来てしまったのだそうです。

 ベータ対VHS戦争やメモリーカード乱立でご承知のように、規格の統一は必ずモメます。82年という早くにMIDIが誕生したのは奇跡というほかありません。氏は基本技術を国内外に無償で公開し、自社製品の仕様を捨てることまでしています。その功績を讃え、米国の名門・バークリー音楽院は名誉博士号を贈っています。

 残念ながら「ビートルズ級」の日本人ミュージシャンってのは心当たりがありませんが、氏の業績は世界に誇るに十分です。「日本人はソフトよりハードを作る方が得意」って定説はポピュラー音楽にも当てはまるようですね。

(AERA2001年06月25日)





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