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■JPOPの貧困とは「ほどよい幸せ」の不幸

 


 過日、香港の芸能界関係者と話したおり、かねての疑問をぶつけてみました。


 香港の歌手は実に熱心に海外公演をします。台北(タイペイ)、シンガポール、マレーシアなど東南アジアや中国本土だけでなくオーストラリア、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコと細かく世界中を回る。ジャッキー・チェンやジェット・リーなど香港映画のスターが米国に進出したことといい、なぜかように海外進出に熱心なのか、不思議でしょうがなかった。ところが、返ってきた答えは単純至極。


 「人口600万人の香港では食っていけないですから」


 とその人物は言ったのです。


 はっとしました。音楽市場規模が香港の約60倍、5030億円という世界2位の日本音楽市場はヒットすれば100万枚単位でCDが売れる、つまり「国内だけで食っていけちゃう大きさ」だということに思い当たったからです。つまり逆にいえば、わが国の音楽産業にはわざわざ外国に出ていく動機がないということではありませんか。


 海外で商売を続けていく動機がないのですから、海外での録音や公演が「アーティスト対策」と呼ばれる飾りの意味しか持たないのも不思議ではありません。そんなことをしているくらいなら、テレビの歌番組に出たりCMタイアップを取って国内での知名度を上げた方が、費用対効果は高いはずです。


 ところがここにわが国の音楽産業が抱える構造的な落とし穴がある。身近な例で言いましょう。「千と千尋の神隠し」で米国アカデミー賞を取ったスタジオジブリは、海外での市場を広げることで制作費を増やしています。つまり欧州や米国でも作品を売ることで制作費を回収できますから、制作予算を大きく設定することができる。市場を拡大することで創作に恵まれた環境がもたらされる「好循環」の例です。


 音楽だと、どうなるか。レコード・CD出荷額世界1位の米国音楽(約1兆6800億円)は、生産額の6〜7割が本国以外で消費される、つまり世界中で売れる競争力がある。これは、世界の市場で売って、投資した制作資金を回収できるということを意味します。つまり投資の財源が豊か。音楽家との契約も標準で「5年でアルバム3枚」といったゆったりとした制作ペースが許される。人によっては5年くらいアルバムを発表しないこともざらです。


 一方、日本は世界第2位のレコード・CD生産国でありながら、その99・4%は国内で消費され、外国には1%も出ない。国外に資金回収先を持たないから「2年で2枚」というペースが標準。「じっくり作品を練り上げる」という点ではどうしても勝てない。これを繰り返すうちに、香港ほどハングリーに世界を回って稼ぐ必要がない一方、米国ほど世界で資金を回収できる国際競争力もないという「中途半端な豊かさ」に日本の音楽産業は停滞しているように思えます。ジブリのように突破口を開いてくれる日本人ミュージシャンが出るのはいつの日でしょうか。

 

(AERA 2003年04月28日)





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