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■歌も声も修正可能なら、レコードって一体ナニ?


 過日。自宅にて横臥しつつテレビの歌番組など眺めておると、エブリ・リトル・シング(ELT)なる男女デュオが現れた。番組ではチャート一位とかで、晴れがましい拍手に迎えられつつ歌を披露したのだが、そのうち当方、妙なことに気が付いた。女性シンガーが頻繁に音程を外すのである。歌メロの高い部分が出ない。メロディーラインが辿り切れない。数えてみたら、一曲中五回も外した。ところがCDを聴いてみると、不思議なことに彼女の歌、番組では外した部分も音程はばっちり正確である。

 そう言えば、テレビで見た宇多田ヒカルのライブも妙だった。ライブでの彼女、声量を上げると豊かな厚い声質なのだが、囁くように歌うと急に声が痩せる。ところがCDでの彼女は、囁くような部分も分厚いセクシーな声。全然違うではないか。

 悶々と過ごしていた某日。偶然、某メジャーレコード会社系録音スタジオで働くエンジニア氏の知己を得た。当方、前述の事象を話し、全く不思議であるよなあ、などと漏らしたところ、エンジニア氏、呵々大笑し「そんなの、簡単に修正できます」と言うではないか。

 一九八〇年代なかごろ、プロの録音現場はデジタル機材が普及、音程やリズムの音痴は簡単な操作で修正できるようになった。それも数万分の一半音単位という細かさで修正できる。声質にしても、イコライザーで声の周波数主成分を膨らませてやると、痩せた歌声がふっくらとセクシーなものに変身する。そうエンジニア氏は言うのだ。それじゃ、宇多田もELTもそうなのか、なる当方の問いには同氏、ただ穏やかに微笑み、一言だけ告げた。プロが聴けば修正はすぐ分かりますよ、と。

 そう言われてみると、最近音痴の歌手がいなくなった。かつて歌謡曲の世界には、音痴だわ声はヘナヘナだわの、どうしようもないカワイコちゃん歌手が結構いたのに、いつの間に日本人はかくも劇的なレベルアップを遂げたのかと感嘆していたのだが、そんな絡繰りとは知らなんだ。

 それにしても、レコードとは本来、その名の通り「記録するもの」であり、聴き手は今も「録音=歌唱力・演奏力」という前提で聴いているはず。それが、音痴も声質もバンバンに修正されたものがレコードなら、はてさて一体何を信じればよいのか。困った。

(AERA 2001年01月29日)





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