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滅びゆくジャケット芸術 音を見せるアート 黒いアナログ盤を包むレコードジャケット。かつて、それは音と絵を融合させる実験場だった。若き日の芸術家たちが才能をぶつけたのだ。それも、CDに追われ絶滅寸前。 |
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最近、「ジャケットフレーム」を売っているのを見なくなった。プラスチックや木でできた、LPジャケットの額縁である。レコードを聴いているあいだ、空になったジャケットを壁に掛け、ぼんやりながめる。繰り返し聴いたレコードは、ジャケットがどんな絵だったかも、いつの間にか覚えてしまう。反対に、ジャケットの絵柄を目にしたとたん、好きだった曲が頭の中で鳴り出したりすることもある。 「大きくもなく、小さくもなく。人を安心させる何かがあるんですよ」 竹家鉄兵さん(52)は、ほぼ30年間、レコードジャケット一筋に手掛けてきたデザイナーである。1960年代に日本で発売されたビートルズやベンチャーズのシングル盤のほとんどは、竹家さんの手によるものだ。 ジャケットアートの起源は、ジャズの時代に遡る。だが、花開くのは、60年代中頃である。そのころ、ロック音楽は大きな変革期を迎えていた。ドラッグ体験が持ち込まれたことが、大きな要因である。 例えば、LSDを服用すると、聴覚と視覚が溶け合い、きれいな音楽が、色彩に満ちた模様として知覚されたりする。これが「サイケデリック」と呼ばれる現象だ。 ジャケットは、音楽を視覚で表現する、実験の場に使われた。デザイナー、写真家、画家、イラストレーターが、競って腕をふるった。ジャケットは、単なる商品パッケージではなくなった。音楽と、お互いにイメージを補いあい、「レコード」というひとつの芸術作品が完成するのである。 ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(67年)は、この代表作だろう。「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のバンドのコンサート、という形でレコードは進む。ジャケット中央でビートルズが扮しているのが、その架空のバンド。よく見ると、ビートルズ(実は蝋人形)が左横に立っている。背後には、マーロン・ブランド、オスカー・ワイルドからエドガー・アラン・ポー、ボブ・ディランと、彼らの音楽が影響を受けた人物がずらりと並んでいる。音楽の中身とジャケットが、同じコンセプトでまとめられているのだ。 このレコードは、ビートルズが女の子相手のアイドルバンドから、芸術としてロックを演奏するアーティストに脱皮した、記念碑的な作品として記憶されている。古いビートルズを葬る葬式をデザインした、という説もある。 日本でLPレコードが初めて売り出されたのは、1951年。それが、80年代に入って、5年もたたないうちにCDに駆逐されてしまった。30センチ角のLPに対して、CDは12センチ角。面積では約5分の1である。勝手はまったく違う。竹家さんはこう言う。 「対象が小さいと、視線が1点にしか集まらない。LPジャケットは『面』としてデザインを考えるのに対して、CDは『点』を中心に考えなければなりません」 CDのように小さくて人目を引くためには、構図は単純で、色は派手な方がいい。LPと同じ感覚でCDをデザインすると、文字が小さくて読みにくい。読みやすさを優先してあまり大きくしては、全体のバランスが崩れる。事態はさらに進んでいる。CDよりさらに小さいMD(ミニ・ディスク)が音楽ソフトに登場したのである。MDのケースはわずか8センチ角。こうなると、もうデザイナーが腕をふるうような場所ではない。 鋤田正義さん(53)が、この20年間に撮影したロックアーティストを全部あげると、それだけでこのページが終わってしまう。LPジャケットとして使われた作品も、50点近くなるだろう。外国では、Tレックス、ロキシー・ミュージック、ルー・リード。日本では沢田研二、YMO、サディスティック・ミカ・バンド、シーナ・アンド・ロケッツ。大物中の大物、と呼ばれる人たちばかりである。 中でも「スキタ」の名前を世界に広めた作品は、デビッド・ボウイの「ヒーローズ」である。店頭いっぱいに、この作品が並んだのを目にした時は、鋤田さんも興奮したという。 「外国で仕事をすると、あのジャケットを撮ったカメラマンか、とサインを求められたり。ジャケットはメディアとして独り歩きするんですね」 ジャケット撮影は、顔のアップを基本にしている。雑誌の誌面で1センチ角の写真になっても、買いたい、と読者に思わせるだけインパクトがあるからだ。 「好きなレコードは、きっとジャケットも好きでしょう。ジャケット写真は、音楽とともに、その人の心の一部になっていく。記念写真が詰まったアルバムのようなものです。写真の中でも独特の分野なのです」 (AERA 92.1.21) |
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