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60年代の彼の写真を見ると長髪、サングラスにジーンズでまるでロック・ミュージシャン。実際、ロックに与えた影響も大きい



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フィリップ・グラス
ミニマル・ミュージックの巨匠は苦労人。やりたい音楽を貫くため、タクシー運転手や家具の配達などバイト生活が長かった。芸術家生活が苦しいのはアメリカでも同じ


「元タクシー運転手」。何度読み返しても、もらった履歴書にはそう書いてある。これって、何かのジョークでしょう?そう聞くと、身を沈めていたソファーからがばと身を乗り出してきた。

「そうそう、それだよ。アメリカって国は芸術家を援助するということをしない。僕も作曲では食えなくてね。『浜辺のアインシュタイン』はタクシーを運転しながら3年かけて書いたんだ。配管工や家具の配達もやった。うん、あれはヘルシーな仕事だった」
アメリカ現代音楽の革命児。そう呼ばれる大物のあなたが、ですか?
「大物?そう。僕は運ちゃん連中の間ではちょっとした大物だったんだ。フフフ」

売れなかったのも無理はない、という気がする。10個前後の音符をつなげ、数秒の短い旋律を作る。それを延々十数分間、機械に弾き続ける。1960年代中ごろに彼が世に問うた「必要最低限の音楽」(ミニマル・ミュージック)はそんな調子だった。革新的とはいえ、退屈もいいところ。ニューヨークの画廊や美術館で演奏すると、客はせいぜい50人。しかも半分は途中で帰る、という有様だった。

「けど、僕はあれで、ミニマルという表現方法を手に入れたんだ」
その数年前、パリ留学中に出会ったインド音楽のおかげで、彼の音楽観は180度転換していた。西洋音楽は和音と旋律が重要で、リズムは付けたし。が、インド音楽はリズムが一番重要で、和音は重視されない。グラスは、そのアイディアを使って、長年学んだ西洋クラシック音楽をひっくり返す作曲を始めた。それが和音も旋律もない、リズムだけの「ミニマル」だった。

41歳になるまで運転手業を続けたのには理由がある。教職に就くことを拒み続けたのだ。 「そりゃ学位もあるし大学で教えるのは簡単にできただろう。でも、学問の世界というのは保守的でね。僕が作った作品は、教師をやっていたらできなかった」

25年を経た最新作のシネ・オペラ「美女と野獣」でも、ミニマル的旋律はあちこちに顔を出す。46年にジャン・コクトーが作った同名の映画の音をすべて消し、オペラ曲を付けた。舞台では、白黒のスクリーンの前に演奏者と歌手が立ち、演奏を繰り広げる。映画の進行と曲とが神業のようにシンクロする、映画とオペラのマルチメディア・ショウだ。

映画だけではない。演劇、ダンス、詩の朗読。時にはロックミュージシャンとも。他のジャンルとの共作に情熱を燃やす人だ。そのほうが、音楽に専門知識のない一般大衆にもアピールできるからだ、という。
「『美女と野獣』は筋も簡単だし、映画は奇麗。それならオペラでも聞いてみようという人が現われる。芸術は高い教育を受けた人だけが独占していいものではない」

「僕の作品は聴衆との対話」と、必ず舞台に上がる。舞台の隅で、グレーのスーツを着て事務机のようなシンセサイザーを一心不乱に叩くのが彼だ。 「オペラは大衆の音楽。貴族だけのためのものじゃないでしょう?そこがいい」
芸術を大衆に。西洋音楽の解体。大学の権威主義に反抗。この人ほど、60年代アメリカ的な作曲家もいない。


●Philip Glass
1937年1月31日米国バルチモア市生まれ。ロシア系ユダヤ人。父親はレコード店を経営していた。6歳からバイオリン、8歳でフルートを始める。14歳でシカゴ大学に入学、数学と哲学を専攻した。15歳でピアノと作曲を始める。19歳で名門ジュリアード音楽院に入学。パリで学んだのちインド音楽に影響を受け「ミニマル・ミュージック」を提唱。68年にオルガンやシンセサイザーに管弦楽器を加えた「フィリップ・グラス・アンサンブル」を結成。今日まで続く。
ニューヨークを拠点に活動。最新作「美女と野獣」は95年秋に日本で公演。オペラ、室内楽、シンフォニー、歌曲など作品は多彩。映画、ダンス、演劇、詩の朗読など他分野の芸術との共同作品として作曲することが多い。デビッド・ボウイ、ブライアン・イーノやクラフトワークなど、グラスとの親交から影響を受けた先鋭的なロックアーティストも多い。オペラ「浜辺のアインシュタイン」(75年)で名声を確立。代表作は「ザ・ボエジ」(92年)「オルフェ」(93年)、ボウイとイーノの曲を編曲したシンフォニー「ロウ」(93年)、「ハイドロジェン・ジュークボックス」(90年)など。影響を受けた音楽家としてベートーベン、シューベルトからジョン・ケージ(現代音楽)、ジョン・コルトレーン(ジャズ)、ラビ・シャンカール(インド音楽)の名を挙げる。




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