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ロックと保守派の対決再び
表現の自由か、社会の害悪か。80年代後半から90年代初頭にかけて、アメリカでロックの歌詞をめぐる論争が沸騰した。キリスト教右翼を中心とする保守勢力の台頭だ。


“Fuck”“Nigger”“Faggot”“Motherfucker”“Asshole”

この部分、米国の雑誌なら、全部伏せ字になるはずだ。「ガンズ・アンド・ローゼズ」の歌は、こんな4文字言葉が機関銃のように飛び出してくる。

自分たちの悪口を書いた評論家の実名をあげ連ね“Suckmyfuckin’dick”(ふざけるんじゃねえ)と罵倒する。そんな曲までレコードにしてしまうのだ。

ボーカリストのアクセル・ローズ(29)は、ステレオがうるさいと苦情を言った近所の女性を瓶で殴り、逮捕された経歴の持ち主。来日したときも、自分たちのミュージック・ビデオの途中でお喋りが入ったと癇癪を起こし、ホテルのテレビをたたき壊してしまった。ギタリストのスラッシュ(26)は、テレビの生放送に酔って出演。「ファック」を連発して顰蹙を買った。他のメンバーも、旅客機でキッチンに放尿したりと、私生活も乱暴狼藉に満ちている。

CD2枚分の作品を2枚1組にせず、1枚ずつ別々に売り出す。大手レコード会社が仕切るビジネス慣習にも、ことごとく逆らっている。
そのガンズが9月に出した「ユーズ・ユア・イリュージョン」が、アメリカでマンモス級のヒットになっている。発売開始後わずか3日で1500万枚を完売。このまま行けば、世界で4000万枚を売ったマイケル・ジャクソンの「スリラー」(売り上げの最高記録レコード)に並ぶのは確実、と言われる。

ロサンゼルスでガンズが結成されたのは1985年。その年、首都ワシントンでは、PMRC(ペアレンタル・ミュージック・リソース・センター)という団体が反ロック運動を始めている。発起人は、ティッパー・ゴア。民主党の大統領予備選候補にもなったゴア上院議員(後にクリントン政権の副大統領)の夫人である。ティッパーは、自分の娘が聞いていたプリンスの「パープル・レイン」を聞いて仰天した。若い娘のマスターベーションが描写されていたからである。

「青少年に害を与える恐れのあるレコードに『有害』を示す表示をつける。暴力、オカルト、性描写なども表示する」
PMRCはこんなキャンペーンを張った。問題が大きくなったのは、後にブッシュ政権の国務長官になったベーカー氏夫人や、対日強硬派でも知られるダンフォース上院議員夫人ら「ワシントン・ワイブズ」が合流、レコード業界に圧力をかけたからである。

「表現の自由」にかかわる問題だけに、全国的な論争に発展。ミュージシャンたちは音楽への検閲だと猛反発した。上院公聴会ではフランク・ザッパ、ジョン・デンバーらが反対証言に立った。

しかし、最後はレコード業界団体が屈服。1986年6月から「保護者へのご注意/露骨な歌詞あり」と書いたステッカーを、自発的に張るようになった。

86年1月、ハードロック歌手のオジー・オズボーンは、ロサンゼルスのある父親に訴えられた。19歳の息子がピストル自殺したのは、聞いていたオズボーンのレコードに、悪魔のメッセージが入れてあったからだ、というのだ。

ヘビーメタルバンドのジューダス・プリーストが、ネバダ州で告訴されたのは90年。こちらも、18歳と20歳の少年が自殺したのは、レコードに自殺を促す信号が入っていたからだ、という理由だった。

89年には、ラップグループ、2・ライブ・クルーのメンバーと、レコードを売ったレコード店主までが、わいせつ容疑で警察に逮捕されるという事件が起きた。

こうしたロックへの攻撃は、麻薬、家出、殺人、自殺といった、80年代以降のアメリカの若者が抱える社会問題の元凶として、ロックを槍玉に挙げるのが特徴だ。その論調には、有線テレビの伝道番組を通じて全国的な影響力を持つようになった、ファンダメンタリストなど保守派キリスト教の主張が色濃く投影している。
中絶、同性愛、共産主義と並べて、ロックを「サタンの陰謀」と排撃する。なにしろ、ダーウィンの進化論でさえ、聖書の教えに背くとして否定する教派なのだ。

「狂信者よ/人種差別主義者よ/俺に後ろ指をさすのは止めてくれ/お前らのいう宗教なんていらない/テレビだって見たくない」

ガンズは「ワン・イン・ア・ミリオン」(100万に1つの大切なもの)の中で、こうした保守派への嫌悪感をはっきり歌っている。
「俺たちの歌は、表現の自由の具体例だ」
アクセル・ローズは真剣だ。

その歌の主人公は、差別や貧困、社会の無理解に傷ついていく若者ばかり。彼らが反抗するのは、自由と寛容の精神を失いつつあるアメリカ社会そのものなのだ。「タイム」誌は、単なるティーンエージャーだけの人気なら、ここまでレコードは売れない、と分析している。

ローリング・ストーンズやジミ・ヘンドリクス、ボブ・ディラン。ガンズの音楽は、意外に正統派で、70年ごろのアメリカのロックの匂いをふりまいている。それは、ヒッピー文化やベトナム反戦運動といった、アメリカ社会に自由な空気が満ちていた「ウッドストック時代」(日本でいえば全共闘時代)を思い出させる。
ロックはアウトローの音楽だった。セックスやアルコール、ドラッグの快楽をあからさまに歌い、社会の差別や無理解を呪う。「本音」の音楽である。

それが大人の反発を買う。しばらく行儀の良い音楽が続くが、やがて前より過激な形で爆発する。また大人の怒りを買う。パンクも、ラップも然り。そんなせめぎ合いを繰り返してきたのがロックの歴史なのだ。

(AERA 91.11.05 )




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