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O157騒動で分かった!日本は実はバイキンだらけ
96年夏に日本全国の親たちをパニックに陥れた堺市の小学生O157集団感染事件。清潔神話に惑わされ、井内を落とした子供たちが気の毒だ。


今回は異常事態です。大変です。

堺市での三日間の調査から東京に戻った国立小児病院・小児医療研究センターの竹田多恵・感染症研究部長は驚きが醒めないようだった。「毒素原性大腸菌」のエキスパートである。

「文明国の奢りでしょうか。細菌の怖さを忘れ、世の中はきれいだ、という油断をしたのでは。菌に隙を突かれました」

大阪府堺市での病原大腸菌O157-H7(以下O157)の集団感染は、感染者〓人、重体〓人という事態に拡大(十八日現在)した。岡山県邑久町(死者二人、有症者四百六十八人=五月二十八日)、岐阜市(有症者二百八十五人=六月十日)に続き、O157は全国で暴れ回っている。

「『食中毒』という呼び方は生易しすぎる。O157の恐ろしさは『伝染病』と呼ぶのが適当です」

竹田部長はそう話す。その根拠は次の二点だ。

@伝染力が強い
A毒性が赤痢菌なみに強い。

@まず、O157はほんの微量でも体内に入ると病変を起こすから、様々な形で運ばれやすい。発症に必要な菌の数は数百個、と推定される。O157患者の便一gには一千万から十億の菌がいるから、最悪の場合、百万分の一gの便の飛沫でも感染には十分、ということになる。

「そんな微量では、便の飛沫が体に付着しても気付かない。例えば、床の上で赤ちゃんのおむつを変えたとする。もしその子が感染していたら、親の手や、周囲の床はそれだけで汚染されてしまう」
国立国際医療センターの竹田美文研究所長はそう話す。

O157は経口伝染だ。汚染物を口に入れることでしかうつらない。だから、つい「食べ物さえ気を付ければいい」と考えがちだ。が、本当に恐ろしいのは患者から健康者に伝染する「二次感染」だ。

「二次感染はすでに始まっています」
やはり堺市で現地調査をした国立予防衛生研究所の渡辺治雄・細菌部長はそう話す。
考えられる一つの可能性はこうだ。感染した子供の便が着いた下着を親が素手で洗う。その時に手に菌が付着。不十分な手洗いのまま食品や食器に触り、家族に伝染した。だから、今のところ二次感染は家庭内感染がほとんどだ。

「いわゆる『食中毒』の原因であるサルモネラ菌や黄色ブドウ球菌に比べ、O157の伝染力ははるかに強い。O157を『食中毒』と呼ぶと、油断が生まれる」
国立小児病院の竹田研究部長はそう話す。

AO157が出す毒素を「ベロ毒素」という。ベロ毒素には二種類あるが、どちらも法定伝染病である赤痢菌が出す毒素と同等か、三十から五十倍も強力。この毒素には、内臓を覆う内皮を破壊する性質がある。血便が出るのは、毒素が腸内の血管の壁を侵し、出血するからだ。

腎臓の尿細管が破壊されると、危険だ。尿が出なくなり尿毒症状を起こすからだ。溶血性尿毒症症候群(HUS)といい、菌検出者の六・七%がかかる(国立予防衛生研究所調べ)。致死率は約一○%。今年五月に岡山県邑久町で起きた集団感染。九○年に埼玉県浦和市の幼稚園での集団感染。いずれも二人がHUSで死んでいる。また、ベロ毒素が脳の血管や神経を破壊、痙攣や意識を失うなどの神経症状が出ることもある。

菌は発病後四から六日で検出されなくなるが、ベロ毒素は体内に残る。毒素を抑える薬はない。自然に消えるのを待つしかない。やっかいなのである。ちなみに、ベロ毒素を出す大腸菌(VTEC)は、約三十種類。怖いのはO157ではなく、ベロ毒素なのだ。

それにしても、今年O157の集団感染がこれほど全国で多いのはなぜか。

「VTECは、日本全国に分布しています」
国立予防衛生研の渡辺部長はそう言う。同研究所には、九一年以来VTECの報告が毎年百件前後入っている。九三年から九五年の間でも、山形、熊本、奈良、広島などで十二件の集団発生が報告されている。
堺市や岡山県邑久町の集団感染は、給食というシステムに菌が乗ったことが感染者を増やす原因になった。専門家の見方はその点で一致している。米国ではハンバーガーのチェーン店にO157が乗り、複数の州で感染が起きた例がある。

「大規模な食品の流通システムに菌が乗ると、広い範囲に運ばれてしまう。便利さを追及した結果といえるでしょう」(渡辺部長)

それでは、O157は一体どこから来たのか。答えは「人間が知らなかっただけで、菌は昔からいた」だ。
大腸菌の種類は多い。人間の腸内にいて何の病気も起こさない「常在型」も含めると「人間の顔ほど種類がある」とさえ言われる。O157の検出には特殊な培地が必要。検査は繁雑だった。

「私の周囲の病院や検査会社がO157検出キットを入れたのは、この七月になってから。全国の集団発生が報道された後です」
都内の国立病院に勤務する慶応大学消化器内科の田代博一助手はそう話す。

欧米でO157が報告され始めるのは八○年代前半だが、これは検出方法が開発されたから。新種の菌が降って湧いたように登場したわけではない。

「これまで、食中毒の病原体は半分以上が分からないまま『感染性腸炎』などと処理されてきた。O157は診断能力が上がって病気が見つかった例だ」(田代助手)

日本でO157の集団発生が初めて報告されるのは九○年の浦和市の幼稚園が最初。が、改めて調べてみると、八三年一月にHUSにかかった子供の保存血清からO157抗体が発見された例がある。また、HUSは70年代から報告されているが、その八から九割はO157を含むベロ毒素大腸菌が原因ではないか。国立小児病院の竹田研究部長はそう見ている。

では、病原大腸菌を一掃することはできないのだろうか。残念ながら答えはノーだ。
食品中の病原大腸菌はそれほど珍しい存在ではない。生食肉百五十九件のうち十五件(九・四%)、野菜や惣菜二百三十八件中一件(0・四%)から病原大腸菌が見つかった(東京都・静岡県・川崎市の共同調査)。ウシの糞便の七・七%から病原大腸菌が見つかったこともある(東京都調べ)。

さらに輸入食品も入ってくる。米国とカナダの調査では、牛肉や牛挽肉の二ー四%からO157が検出されたという報告がある。
「糞便がまったくない牛の飼育環境を作るなら、牛肉の値段が百倍近くに跳ね上がってしまう。輸入肉を百%検疫するのも不可能だ」
都立衛生研究所の伊藤武・細菌部長はそう話す。

「感染源の食品が分かったとしても、追放するわけにもいかない。追跡してどうするのか」
国立国際医療センターの竹田研究所長はそう指摘する。竹田所長が懸念するのは、すでにO157が河川を汚染している可能性だ。特に、管理の悪い浄化漕からトイレの汚水が漏れ出す現象が心配だ。事実、九○年の浦和市の集団感染は、浄化漕から漏れた汚水が井戸水を汚染したのが原因だった。

大腸菌は水中でも数日間は生きている。近隣の河川が汚染されると、灌漑用水も汚染される。そうなると、野菜・果物や米も安全とはいえない。米国ではリンゴジュースやレタスから感染した例もある、という。
「下水道普及率にしても、日本の環境衛生はまだ先進国最低レベル。伝染病はもう日本から姿を消した、というのは誤解にすぎなかった」

それでは、感染しないためにはどうすればいいのか。専門家の意見は一致している。我々が生活している環境は病原体だらけということを前提に、消費者が自衛すること、だ。

@下痢をしている人は食品に触らない。加熱した食品でも菌の付いた手で触れたら元も子もないA調理したらすぐ食べる。冷蔵庫でも菌は繁殖するB排泄物を触る時は使い捨て手袋をする。

(AERA 96.7.29)





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