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弁護士と銀行が銀幕の裏に/ジャパンマネー、ハリウッド投資指南
バブル経済真っ盛りのころ、日本からハリウッドへの投資が花盛りだった。航空機に次ぐ米国最後の輸出商品といわれる映画。不況のいま考えると嘘のような話ではある。


92年4月中旬に公開される米国のサスペンス映画「ゆりかごを揺らす手」を見るときは、最初のクレジットに注目してほしい。プロデューサー、映画会社名に続いて「ノムラ・バブコック・アンド・ブラウン」の名前が出るはずである。同社は野村証券系の投資会社。昨年「ディズニー」と半額ずつ出資、製作会社「インタースコープ・コミュニケーションズ」と映画5本前後を作る契約を交わした。投資金額は全部で5000万ドル。社名は明かされていないが、中堅メーカーや不動産会社十数社が共同で出資している。

今年の春から秋にかけて、「ゆりかごを揺らす手」のようにハリウッドに注ぎこまれたジャパンマネーが生んだ映画が、次々に日本で公開される。

M・ダグラス主演のサスペンス「氷の微笑」(6月公開)と、M・モディーン主演のヨットレース映画「ウィンズ」(秋公開)を作った製作会社「キャロルコ」には、パイオニアが12%に当たる6000万ドルを出資している。「キャロルコ」は「ターミネーター2」を作った会社として有名である。

「ダイ・ハード」のプロデューサー、ローレンス・ゴードンと日本ビクターの共同事業が、製作会社「ラルゴ・エンターテインメント」。ビクターの出資は1億ドルである。「バック・イン・ザ・USSR」「ニューヨークのいたずら」は「ラルゴ」の製作だ。

「米国映像産業に投資してみませんか」
こんなキャッチフレーズで、日本経済新聞社が企業向けシンポジウムを東京で初めて開いたのは、90年6月。ソニーがコロンビア映画を買収した9カ月後だった。ハリウッド産業全体の動向から俳優、監督との契約書の作り方まで。税務、法務などの講義がぎっしり続く実務講座ながら、人気は上々だった。景気の頭打ち感が広まっていた昨年10月の講座でも、定員いっぱいの参加があった。その中には、富士銀行、日清食品、オリックス、福武書店、日商岩井といった企業名が見える。

「初期のころは、投資交渉に弁護士も付けない会社があった。とにかく不慣れだった」
そう指摘するのは、昨年暮れに『ショービジネス・インUSA』(中公新書)を出版した弁護士の鈴木武司さん(40)だ。
ハリウッドはある意味で特殊な閉鎖社会だ。独特のビジネス慣行があり、人脈がモノを言う。映画製作にどんなスタッフを雇うのか?著作権は誰が所有するのか?ビデオ化した時の収益配分は?テレビ放映の収益は?こうして契約書は膨大な量になる。だから、ハリウッドは弁護士抜きでは回らない社会である。

「日本企業は、担当者の責任問題になることを恐れて、いったん始めた大口の商談からは簡単には撤退しない。ところが、相手はそんな日本企業のクセをよく研究していて、契約書にサインする直前に条件をつり上げたりする」
弁護士である鈴木さんが本を書いたのも、そんな複雑怪奇な米国ショービジネス業界の指南書が必要だ、と考えたからである。

そのハリウッドを、カネの面から知りつくした日本人銀行員がいる。「ハンク・ノザキ」こと野崎裕司さん(39)である。日本長期信用銀行の映像・メディア・エンターテインメント担当副参事役。野崎さんによると、日本企業のハリウッド投資には、大きく分けて3つの型がある。

(1)「ソニー」「松下」の映画配給会社買収は、何十年に一度の大型企業買収であり、別格。
(2)映像機器メーカーや、マスコミなど、映画投資で本業に寄与するのが目的の投資。パイオニア、ビクター、フジ・サンケイグループなどがこれに当たる。
(3)財テク、節税対策の投資。日本の税法では、映画への投資は「映画フィルムの購入」として扱われる。その償却期限は2年と、短く設定されている。

現在、映画の劇場公開で得られる収入の割合は、全体の3〜4割に低下している。残りはビデオやテレビ放映による収入だ。すると、どんな映画でも、投資したコストを回収するのに5年はかかる。2年の償却期間では、どうしても赤字が出る。この赤字分だけ、法人税を節約できる、という仕組みだ。「映画投資は第二の不動産」。バブル全盛期には、証券会社やノンバンクが、ハリウッド投資を「節税商品」として売り出していた。

「景気が後退しつつある現在は、(3)が淘汰される過程。(1)(2)のように戦略を持った投資家だけが生き残っていくでしょう」
野崎さんはこう分析する。

日本企業はお金はあるが映画作りのノウハウはない。一方、ハリウッドの方は、ノウハウはあるがお金がない。その原因は製作費の高騰である。特に人件費と著作権料関係である。1960年代ごろまでは、映画監督といっても映画会社の一社員、現場責任者にすぎなかった。最近は、力をつけるとすぐ独立して自分のプロダクションを構える。スピルバーグ監督の「アンブリン」もそのひとつである。映画会社がスピルバーグを起用すれば、アンブリンが抱えるスタッフも一緒に雇うことになる。製作費の上昇に比べて、観客数は伸びない。レーガン政権時代のような、米国企業の投資熱も冷めてしまった。これがハリウッドと日本企業を結びつけた事情だ。

「映画に投資した資金を回収するには5年から10年のスパンが必要だ。日本企業の進出が成功か失敗か、まだ結論は出ない」

著書『ハリウッド・パワーゲーム』(TBSブリタニカ)が、今年の文化庁「芸術選奨新人賞」に選ばれた内藤篤さん(33)は、そう言う。内藤さんも、鈴木さんと同じ弁護士である。冒頭の「ラルゴ」「キャロルコ」といった、大手映画製作会社(メジャー)に属さない独立プロダクションが活気づいているのは、ジャパンマネーの功績。かつて年350本を見た映画狂の内藤さんは、そう見ている。

(AERA 92.04.21)




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