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選挙を控え、有権者への売り込みに精を出すノーウッド議員(左端)



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ジョージアの歯医者はなぜ下院議員になったのか?
田舎の歯医者さんがある日下院議員になった。反ワシントンを掲げ、暴れまくった保守派「共和党73人衆」の一人。ジョージア州オーガスタの選挙区ルポ


白い車が、道ばたのハンバーガー屋に入った。スーツ姿の男性二人が店に駆け込む。コーラでハンバーガーをあたふたと流し込み、昼食時間十五分足らず。

「私は田舎者でね。コーンブレッド(南部名物のパン)が好きだな。ここらへんは野菜がうまい。豆やトウモロコシを煮たのを冷凍してワシントンにも持っていくんだ」

白髪、格幅の良い体格。紺のブレザーの襟に、赤い議員バッジが光っている。チャールズ・ノーウッド下院議員54である。
議員は今日も選挙区回りに忙しい。毎週火曜日から金曜日まで首都ワシントンで過ごし、金曜夜から月曜までは地元「ジョージア十区」を走り回っている。

「私、下院のノーウッドです」
食事を終えると、カウンターに立つ店員にまで自分の選挙ビラを配って握手している。九四年に初当選。今年秋にはもう次の選挙が待っているのだ。

「私は、減税のためにワシントンの連中と日々戦っております。政府の官僚は我々の金の使い道まで決めようとしている」
「リベラルの心臓に杭を打たないと、連中は政府が破産するまで金を浪費し続けるでしょう」
三十分前に、退職公務員の昼食会で五十人ほどを前にそんな熱弁をふるったばかりだ。そんな小さな集まりを一日に数カ所回る。選挙区は広い。一日後を追いかけたら、車の走行距離計がたちまち四百キロを超えた。

ノーウッド議員は、九四年の中間選挙で大量に当選し、共和党に上下院の過半数をもたらした新人議員集団「共和党七三人衆」の一人だ。九五年末、クリントン政権の予算案に頑強に抵抗し、とうとう連邦政府機関の閉鎖にまで追い込んだのがこの人たちだ。
この七三人衆、蓋を開けてみると偶然にもほとんどが政治素人だった。元歌手。元フットボール選手。テレビのスポーツキャスター。小学校教諭。セメント会社社長。ノーウッド議員も、当選する前は歯医者だった。公職の経験はない。
それまで、米国の議員の最大の供給源といえば、法律のプロ・弁護士だった。ところが、九四年の選挙でノーウッド議員は、民主党の現職議員(弁護士)を六六%という高得票率で蹴落とした。「民主党・クリントン政権」と「プロ政治家」への、保守派市民の反乱である。

密着取材を十日。日曜日、自宅へ帰ったノーウッド議員にインタビューをした。森に囲まれた河畔に立つ美しい家である。
bどうして素人議員が大量に生まれたのですか。
「昔は犯罪も少なくて、ずっと住み良い社会だった。こんな滅茶苦茶な状態はたくさんだ、これなら自分の方が上手にできる。みんなそう思い始めたからだろう」
b何が不満だったのですか。
「もう税金を払うのはうんざりだ。政府の規制にもうんざり。何も分かっとらんワシントンの官僚に金をやれば、我々国民の金なのに、可処分所得が減って使い道を指図されるだけじゃないか」
b今もワシントン素人ですか。
「政治活動なんてこれが初めてだ。
政治なんてできれば遠慮したい。友人なんていらない。選挙区の人々に答えることと、世の中を変えること。これだけが目的だ」
bではインサイダーとは?
「特に上院議員がいかん。共和党も民主党も、上院の連中はワシントンに長くいすぎる。庶民が何を望んでいるのか、まったく分かっとらん」
b任期制限を主張していますね。
「十二年で充分だ。こんなにきつくて給料が安い仕事も今までなかった。おもしろくない仕事だ」
bつまり失うものが何もない?
「私は政界での出世なんて全く望まない。同意しないなら交渉はおしまい、でいい。選挙区の有権者は、戦う人間として私を送った。官僚どもに好かれようなんてちっとも思わん。彼らを公聴会に引きずり出すのは大好きだ」

有権者は何を考えてプロを見限り、このノーウッドを議員に選んだのか。有権者の特徴を簡単にまとめておくと、こうなる。@ワシントンの政府官僚やプロ政治家(党を問わない)への強い不信A政府の介入を嫌う。減税や規制緩和、銃を持つ権利の擁護に執念を燃やすB中絶反対、家族の価値などキリスト教道徳への回帰を主張。

「チャーリーを選んだ理由かい?彼が弁護士じゃないからさ。もう弁護士はたくさんだ。誰か中産階級の苦しみのためにがんばってくれる人物がほしかったんだ」
マイク・マッコーム39はそう言った。人口二千人の田舎町リンカーントンで保険代理店を営みつつ、町長を三年勤めている。強い南部英語だ。サンキューがスァンケヨオみたいに聞こえる。

彼は、連邦政府の権限をもっと弱め、税金は最小限にすべきだ、と言う。規制を減らして官僚制をスリムにすれば税金も減らせるはずだ、というのだ。
「ここ五年で中小企業への規制は二、三倍に膨らんだ。例えば『作業安全基準』がそうだ。道路掃除だろうと伐採だろうと、救急手当の講習を受けろというんだ。書類作りも大変。もううんざりだ」

ノーウッド議員が立候補を決心したのも、規制が原因だったという逸話がある。歯科治療の際にゴム手袋をする規則ができたため、代金を治療費に上乗せした。患者の苦情で規制を緩和するよう議員に手紙を書いたが埒があかない。それならいっそのこと自分で議員にと決意した、というのだ。

マッコームと一緒に街を歩いた。中心部に仕立屋や散髪屋が五、六軒ぱらぱらとあるだけ。道行く人々が、彼に挨拶をする。家に鍵をかけずに外出しても平気だし、車にキーをつけたまま離れても盗まれることはない。米国を蝕む犯罪や麻薬とも無縁の、平和な街だ。
「ここでは、人々がお互いにとても親しく助け合っている。チャーリーはそんな親しみやすさを議員になっても忘れず、呼べばすぐ来てくれる。前任の議員は会ったこともないのに」

自分たちの声はワシントンには届かない、という苛立ちが有権者に鬱積していた事も背景にある。
「十区の人々は大統領選挙からも取り残されたように感じていた」
共和党の地区委員長ボブ・ガードナーはそう言う。三月九日、ジョージア州でも共和党大統領予備選挙が行われた。が、十区に来た候補者はパット・ブキャナン一人だけ。それも、空港に三十分いただけで去って行った。

「共和党の予備選では何もしなかった。大統領になってほしい候補者もいなかった」
ノーウッド議員はそう話す。当時大統領候補指名がほぼ確実視されていたドール上院議員でさえ、「プロ政治家」として遠ざける。そんな不信感が読みとれる。

南部のジョージア州でノーウッドが共和党から当選したのは、実は驚天動地の出来事だった。共和党といえば南北戦争での北部の政党であり、戦争後は「南部再建」で南部社会を破壊した政党。そんな恨みがずっと尾を引き、どんな保守的な人でも民主党に投票するのが南部州の伝統だったのだ。そんな有権者が共和党に寝返ったのは、それだけ民主党への絶望感が深かったからともいえる。

政府の規制に強い拒否反応を示すのはマッコーム一人ではない。
「やあベイビー、元気かい」
トム・トンプソン60が赤いトラックで牧場に入ると、牛たちが回りに集まってきた。彼はジョージア州の主産業のひとつ、酪農農家である。機械化された農場で、六百頭の牛を飼う。大学で会計学を学んだ農場経営者でもある。

彼がノーウッド議員を支持するようになったきっかけは、牛乳を値上げして農家への補助金に回す、という法案が議会に提出されたことだった。
「ところがその法案が通れば、値段が上がるだけで、南部の酪農農家には大打撃であることが分かった。何とか潰そう、と同業者を組織してあるゆる手を打った」
コネを頼り、ギングリッジ下院議長に面会を申し込んだが、だめ。が、ノーウッド議員に仲介を頼んだところ、即座に会談は実現。数カ月後、法案は廃案になった。
「連邦政府には不要な官僚とか、あちこちに無駄遣いが多すぎる。増税する前に財政赤字を何とかすべきだ」

ジョージア十区を車で走ると、道路脇に現れるものは決まっている。緑の草を食む牛、馬、羊。松林。それに教会である。ガソリンスタンドと同じくらいの頻度だ。
ロバート・ポラード45は、そんな教会の日曜学校で聖書を教えている。彼が住む人口二千人の町には、八カ所の教会がある。
「チャーリーの前任者はリベラルすぎてだめだった」

本業は製材所の経営だ。大学卒業後、家業を継いだ。百人弱の従業員を抱える。この地域では典型的な中小企業経営者だといえる。
「中絶は人殺しだ。財政赤字の問題では妥協してもいいが、中絶だけは許せない」
ジョージアのように信仰の篤い南部州を「バイブル・ベルト」と呼ぶ。ポラードは、ここでは自分は穏健派保守であり、ごく普通の有権者だ、という。
「この国はいま正しい道から外れている。道徳の危機だ。麻薬、犯罪。本当にひどい。九四年から国全体が保守的な方向に動いているのはそのせいだろう」

ポラードのオフィスには、息子たちと出かけた狩りの記念写真が並んでいる。射止めた鹿を手に、親子が微笑んでいる。
ノーウッド議員は「銃を持つ権利の熱心な擁護者」だ、と自分で言う。マシンガンの製造規制にさえ反対している。当選祝いも、家族とのハンティングだったそうだ。

「親が子供にハンティングを教える。銃と一緒に育つ。ここでは特に変わったことではありません」
射撃場を経営するエリック・ティンドール二五はそう話す。同州では、犯罪歴がなければ運転免許を提示するだけで十分以内に銃が買える。この店だけで月に二十から五十丁の拳銃が売れる。彼の射撃場はボーリング上の隣。女性もティーンエイジャーも、ボーリングでもするかのように気軽に銃を撃っている。

ティンドールは、ブレディ法やマシンガンの製造禁止など最近の銃規制の動きに憤慨する。
「ワシントンの人間があれこれ銃について指図するのはうんざりだ。そんなことは個人が決めればいい。
だからこそ武器を持つ権利を守る議員を持つのは重要だ」

そんなノーウッド議員も、今年秋の選挙は前回ほど楽勝ではなさそうだ。隣の選挙区で線引きが変更され、選挙区内の黒人人口が一七パーセントから三四パーセントに急増したのだ。
「ノーウッドは、アフリカ系市民という要素をまったく無視してきた。この扱いが続けば、黒人層の恐怖心に火が付くかもしれない」
八一年から三年間オーガスタ市長を勤めたアフリカ系のエド・マッキンタイア64はそう話す。八〇%以上が白人の選挙区から当選したノーウッド議員は、実質上白人層の代表だったのだ。アフリカ系のマッキンタイアの目には、共和党七三人衆の躍進は白人保守層の巻き返し、と映る。
「白人層は二〇五〇年には少数派になる。今持てるものを失う、という恐怖があるのだろう」

そして資金繰り。前回の選挙にかかった費用は、約百万ドル。そのうち九五%を個人献金で賄った。が、今回の選挙ではPACを通した企業献金との比率が半々になりそうだ。議員本人がそう認めている。PACからの献金は、一般にプロ政治家の手法と見られている。「素人政治家」の看板そのものが変質しつつある。

(AERA96.4.22)




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