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番組の収録中に祈りを捧げるパット・ロバートソン師(右端)



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TVで布教するキリスト教右翼の教祖
テレビ番組でキリスト教を説くテレビ伝道師。日本人には何だか安っぽく思えるが、広い米国では影響力は絶大。インテリには馬鹿にされながらも、ワシントンにも強い力を行使。その「総本山」と「教祖」のルポ。


テレビ局の楽屋の前で「教祖」を待った。彼の名はパット・ロバートソン氏65。テレビ伝道師であり「キリスト教徒連合」の創設者。なにより、このキリスト教専門放送局「クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク」(CBN)の創設者でもある。

ここバージニア州バージニアビーチの一角は、ロバートソン氏の「王国」である。氏の私邸とCBNを中心に、自らが設立したリージェント大学。法律事務所。ホテル。七千八百エーカーの敷地に、煉瓦作りの建物が散らばる。「連合」の本部も車で十五分だ。一九五九年、持ち金七十ドルでこの地に来た氏が築いたグループの年収はいま、一億八千九百四十七万ドルにも及ぶ。

本番5分前。黒づくめの司祭を想像していたら、メークを済ませて現れたロバートソン氏は赤い縞シャツに赤ネクタイ、グレーのスーツに茶色のカウボーイブーツ、という身長百八十の大男だった。

伝道番組とはいえ、説教はない。聖書朗読も賛美歌もない。トークショーである。黒人男性ホスト、元ミスアメリカという白人女性ホストとともにニュースにコメントを加えていく。
まず、この日はルイジアナ州予備選でブキャナン氏が勝った、というニュースから。雪の中を戸別訪問するキリスト教連合のメンバーが映し出される。キリスト教保守派の票がブキャナン氏に勝利をもたらしました、とキャスターが言えば、画面変わってロバートソン氏が満足そうに言う。
「いやあ、本当に勤勉で愛国的な素晴らしい人たちですねえ」

続いて中絶手術の失敗が原因で死んだ女性の追跡レポート。不治の病で自殺しようところイエス様の声が聞こえ、たちどころに病気が治ったという女性のインタビュー。アフリカで盲目や全身麻痺を治す奇跡を行った、というドイツ人伝道師との対談。最後は出演者全員が手をつないでお祈り。
「エイズや癌で苦しむ人を救いたまえ。ハレルヤ!」

ニュースや娯楽番組の体裁を取っているが、キリスト教徒連合の宣伝や反中絶など、ロバートソン氏個人の主張を広めるための番組である。プロテスタントの伝道師だが、氏は教会を持たない。この一時間半のテレビ番組「七〇〇クラブ」が彼が「教会」である。

その影響力ははかり知れない。十三基のパラボラアンテナから全米に送られ、ケーブルTVを通して毎日百万人が彼のテレビ説教を聞く。ニューハンプシャー州の予備選挙運動の途中で劣勢が伝えられたスティーブ・フォーブス氏が選んだ戦術は、CBNとの独占インタビューに出演して保守層にアピールすることだった。

「CBNの使命は、世界をキリストの再来に備え、この世に永久に続く神の王国を築くこと」
ロバートソン氏は、八八年に共和党大統領候補に出馬し、失敗。翌年、その組織と主張を引き継いで発足したのが「キリスト教徒連合」である。CBNと連合は別組織の形態を取っているが、氏と連合の主張は矛盾することがない。連合の成功は、それに先立つロバートソン氏のメディア王国なしにはありえなかっただろう。

どうして米国人はかくも宗教に引きつけられるのか。
まず第一に、米国人の大半は想像以上に信心深い。八四%がキリスト教徒。七割が教会またはシナゴーグ(ユダヤ教の寺院)に属している、と答えている。(九五年ギャラップ社調査)この割合は、一九三七年からほとんど変わっていない。

これが答えか、と感じたのはCBN内にある「ナショナル・カウンセリング・センター」に足を踏み入れた時である。「七〇〇クラブ」の放送が始まると、この大部屋に引かれた百十本の電話が一斉に鳴り始めたのだ。
「悪魔は嘘つきです。一緒に祈りましょう。イエス様を心の中に導いてください!」
聖書と受け答えマニュアルを電話の横に置いた女性が叫んでいる。視聴者の悩みを聞き、電話口で共にお祈りをする。そんなコーナーが番組の中にあるのだ。
取り乱した男の声。乳飲み子を置いて妻が出ていってしまった。どうしたら妻が帰ってくるのか。公衆電話から中年女性の声。子どもが麻薬中毒になってしまった。老婦人の声。息子が賭博に溺れている。病気で入院しなければならないのにお金がない、どうしようc。電話の向こうで泣き声が聞こえる。ティーンエイジャーもいれば、お年寄りもいる。そんな電話が、昨年一年間に百九十万本もあった、という。
「みんな、誰かが一緒についていてくれるという感覚がほしいんですよ」
傍らの女性が呟いた。家庭の崩壊。麻薬。犯罪。貧困。テレビ番組に電話するしか相談相手もない人たち。この広漠たる国で、ばらばらに孤立した人たちのうめき声を聞いたような気がした。

番組収録を終えて出てきたロバートソン氏に、廊下で五分間だけインタビューできた。
―米国のモラルをどう見ますか。
「離婚、未婚の母、非嫡出子の増加と、かつてない規模で家庭は急速に崩壊し、麻薬中毒や犯罪が急増しています。深刻なモラル危機が進行しています」
―それでキリスト教が復活しているのですか。
「米国は先進国の中ではもっとも信仰の厚い国でしょう。とても強いキリスト教の伝統がある。大多数は聖書と神とキリストの言葉を信じている。が、ハリウッドやテレビでは、神に背くポルノや、誘惑と暴力のはびこる半家族主義的番組が連日流され、若者に多大な害を与えています」
―なぜテレビ伝道を選んだのですか。
「テレビは今や世界の人々とコミュニケートするもっとも効果的な手段。視聴者の数は莫大。しかも人々はテレビが大好きです。(教会とは)効率で比較になりません。イエス様の言葉を人々に伝える、素晴らしい方法です」

礼儀正しい人たちだが、キリスト教以外の文化への非寛容さがちらりとのぞくことがある。
番組収録中に、視聴者から「生まれ変わり」についてどう思うか、という手紙が紹介された時のことだ。とたんに、ロバートソン氏の顔が険しくなった。 「いいですか。あれはヒンドゥー教徒が人種階層を肯定するために利用している概念です。キリスト教には一切関係ありませんっ」

また後日、ロバートソン氏が七七年に設立したリージェント大学のテリー・リンボール学長47をインタビューしていた時のことだ。ちなみに、この大学はジャーナリズムや行政、教育界や法曹界などに人材を送り込んでいる。
「ユダヤ教は不完全な宗教でした。イエス・キリストの出現によって完全なものとなったのです」
そう真顔で言うのだ。つまりキリスト教の方がユダヤ教より優れている、という話である。ユダヤ人が聞いたら激怒するだろう。また次のようにも言った。 「聖書によれば、同性愛は反道徳的であり不自然。貪欲と同じように同性愛は罪です」
ここでは、キリスト教以外の宗教や文化や共存ともしていこうという、かつての米国の国是だったはずの「多元文化主義」は影が薄い。キリスト教は他文化より優れている、という傲慢さの匂いが消えないのだ。

(AERA96.3.11)




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