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キリスト教徒連合の本部で、有権者に電話作戦をかける職員



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キリスト教右翼の強大な影響力
日本ではほとんど知られていないが「中絶反対」「ファミリー・バリュー」など保守反動の政治問題をワシントンに持ち込んでいるのはキリスト教徒連合という宗教右翼だ。保守的なキリスト教国としてのアメリカの姿がここにある


「父なる神よ。この自由の国で投票する権利を感謝します。アメリカが聖書の国であることを感謝します。アーメン」
お祈りで始まり、お祈りで終わる政治集会というのは初めて見た。右翼政治団体「キリスト教徒連合」の決起集会「神と祖国のための集会」のことである。
二月十六日金曜日、四日後に共和党の予備選挙を控えたニューハンプシャー州は零下十度の猛吹雪である。つるつるに凍ったハイウェイにハンドルを取られながら来てみれば、悪天候にもかかわらず会場は数百人の会衆で満杯だった。

星条旗への誓いを唱和。「星条旗よ永遠なれ」を斉唱。続いて、共和党の大統領候補者が次々に演壇に上がる。まず、四日後、この州で勝利を納め一気に有力候補に浮上するパット・ブキャナン氏。会場は「がんばれパット!」の歓声で沸騰したような騒ぎになった。
「私は誓います。史上もっとも中絶反対主義の大統領になることを。中絶廃止をホワイトハウスで実現できるようにみなさんの力を貸してください!」
顔が紅潮し、声を張り上げると唾が飛びゲゲゲと声がかすれる。この人、数日前に選挙参謀が白人史上主義グループと関係していたことが報道されたばかり。反ユダヤめいた発言をしたかと思うと、アメリカの経済の敵、とメキシコや中国、日本を攻撃する。集会から外国プレスを追い出すわ、連邦政府の学校教育への介入を攻撃する一方で、日本からの輸入品に一〇%の関税をかけろと言うわ、右翼というより極右に近い。連合はどの候補も推薦していないが、ブキャナン支持者とは層が重なる。

続いて元テネシー州知事のラマー・アレクサンダー氏。ブキャナンよりは穏健な人物だ。それでも
「キリスト教徒連合のみなさんのように、アメリカの家族の崩壊に心を痛めて立ち上がった人々が政治や共和党に参加していただくのは大歓迎です」
結局、八人いる共和党候補のうち、四人が出席。ついでに州知事、教育委員、上下院議員。共和党有力者がぞろぞろ現れては中絶反対、家族第一主義と連合の主張そのままの演説をぶった。

ふと見ると、隣席の女性が紙に書き込みをしている。八人の大統領候補者の上にマルとバツ。連合が予備選に合わせて全国に二千二百万枚ばらまいた「有権者の手引き」だ。中絶の全面禁止、軍のゲイ容認政策の廃止など、連合の主張する政策に候補者が反対か賛成か、一覧表で一目で分かるようになっている。なるほど、この集会は連合会員による候補者の「面接試験」なのだった。

一番人気はブキャナンだった。ドール上院議員やフォーブス氏は来なかった。アレクサンダー氏は得点を稼いだ。今にして思えば、あの集会を見ればニューハンプシャー州予備選挙の結果はすべて予想できた。

共和党候補が連合の気を引こうと躍起になるのも無理はない。全米に会員が百七十万人という票数の多さ。連合は「十八州で共和党を完全に支配し、十三州で強い影響力を行使している」(タイム誌)ほか、九四年の中間選挙では少なくとも投票した人の二〇%が宗教右翼だった、という調査結果もある(ロサンゼルスタイムズ紙)。共和党にとって、連合はもっとも頼りになる組織票なのだ。

連合は、テレビ伝道師パット・ロバートソン氏(別項参照)が八九年に結成した政治団体だ。宗教右翼団体はそれ以前から存在した。が、ワシントンにこれほど強い影響力を持つようになったのは、連合が初めてだ。
プロテスタントが八割前後と圧倒的に多い。最近は、反中絶、ゲイ非容認などでカトリック(一六%)やユダヤ教の一部とも共闘、会員をひろげている。
連合が重点を置く主張をごく大ざっぱに言うと@中絶反対A伝統的な家族の保護(同性愛非容認、被扶養家族への税控除、ポルノ規制など)の二点が大きい。 「九二年の大統領選挙で共和党全国大会の議題を決めたのはキリスト教徒連合だった。ブッシュが『ファミリー・バリュー』を言い出したのはその例です」 連邦議会調査局で宗教と政治を担当するジム・セイラー調査員はそう指摘する。

ブッシュ政権の副大統領だったダン・クェール氏はキリスト教右翼全体と関係が深い。共和党が上下院の過半数を制圧した九四年の中間選挙では「下院で共和党が得た五十二議席の半数は連合のおかげ」(タイム誌)と言われる。今回の大統領予備選挙でも、連合はドール、ブキャナン、グラム(二月に脱落)陣営に選挙参謀を送り込んでいる。

では連合のメンバーはどんな人たちなのか。取材した範囲で言えば、狂信的な人も排他的な人もいた。が、むしろ人間としては礼儀正しく真面目な人の方が多かった。お年寄りだけでなく若者や、知的職業層も少なくない。

例えば、会場にいたブライアン・ホーリックさんは、三十九歳の工業デザイナーだ。教会に置かれたチラシを見て、今日初めて連合に入会した、という。 「いまアメリカは様々な問題を抱えているのに、連合ができるまでは、私たちクリスチャンが政治に声を上げる場所はなかった。連合には感謝してます」 ―どんな問題でしょう。
「クリスチャンは中絶に反対です同性愛のような不道徳にも反対。その二つが大きいですね」
―予備選では誰を支持しますか。
「私はずっと共和党員。投票には毎回行きます。今回はブキャナンを応援しています。アメリカの経済や道徳を取り戻したいと真剣に考えている。思ったことを言う、信念のある人です」
―人生に信仰は重要ですか。
「信仰に入る前、大学でコンピュータを勉強していました。そのころは科学が全てを解決できる唯一の手段だと信じていた。今は毎週教会に行きます」 どうして保守主義に若い世代が惹かれるのでしょう。
「保守側が語るのは神、命、尊厳そして幸福の価値観。革新側は全てをダメにした前科がありますしね。革新側が連邦議会を牛耳っていたころの福祉政策が貧困など新たな問題を生んだ」

会場のすみに、老紳士が座っている。ホーリックさんが見たチラシは、おそらくこの人が配ったものだろう。テイラー・コールさん73。この集会の前日、コールさんは愛用のフォードのトラックを運転して、自分が住む街の教会を五カ所ほど回っていた。
「失礼します。お電話したキリスト教徒連合のコールですが」
抱えた段ボール箱には「有権者の手引き」が詰まっている。教会に手引きを置いて集まる人々に配ってもらうよう頼んで回るのだ。教会や、住宅街の隣人たちがコールさんのネットワークだ。

高校の数学教師を四十年間勤め、九人の子どもを育て上げた。九年前に引退して子どもの家に近いニューハンプシャー州に引っ越してきた。コールさんもホーリックさんと同じように、連合に入るまではあまり政治活動には熱心ではなかった、という。そしてやはり同じようにアメリカの現状に強い危機感を抱き、これを救うには家族や教会というコミュニティを取り戻すしかない、と説く。

「連合に入る前からゲイには反対でした。中絶もそう。胎児は犬でもネコでもなく命ある人間。殺すのは殺人です」
―どんな問題に関心がありますか。
「この国を覆う最大の問題は道徳の退廃だ。夫は子どもを育てる金に責任を持ち、妻は養育に責任を持つという伝統的な家族像が機能しなくなっている。家族の問題に関心があるのはそのためだ」
―どうすれば解決するでしょう。
「かつてそうだったように、教会がコミュニティに責任を持つべきだ。福祉のように、この広い国に一律に連邦政府が介入してもうまく行くはずがない。地域が人々の面倒を見るのがいい」
コールさんはニューハンプシャー州はナシュアという街の支部長。さらに下に三十人前後の熱心なメンバーがいるほか、七十人ほどが名簿に登録している。こんなふうに、全米百七十五の選挙区に必ず十人は活動家をおいている。
「九四年の中間選挙のときは、五、六人誘って投票に行きましたね」

連合の選挙戦術に「投票へ行こう作戦」というのがある。米国では投票をするには有権者登録という手続きが必要だ。知り合いの登録を手伝い、さらに投票日当日は車で迎えに行って投票に連れていく。徹底した票の掘り起こしだ。

連合の機構はこうだ。バージニア州チェサピークに本部。ワシントンに議会対策事務所がある。中絶、ゲイ、公立教育など連合が目を光らせる分野で中央政界に動きがあると、まず州支部長レベルに電話やファックスで連絡が行く。そこからコールさんのような市郡支部長に伝達。さらに末端の会員に伝わり、会員は地元選出の上下院議員に電話、ファックス、電子メールなどの方法で抗議を殺到させる、という仕組みだ。ニューハンプシャー州の会員約二万人を一時間で動員できるという。

通信手段が発達しているのもキリスト教徒連合の大きな武器だ。連合によると、連絡の半分はファックス。一五%がパソコン通信。残りが電話と郵便。もちろんインターネットにホームページもあるし、月一回衛生放送で放映されるテレビ番組「キリスト教徒連合ライブ」は全国の会員に連合の基本方針を伝える役割をしている。

この活動資金はどこから来るのか。答えは「お布施」である。連合の支出は年約二千五百万ドル。その百%が寄付で賄われる。
「私も、毎月二十五ドルずつ必ず寄付しますよ」
コールさんはそう言う。それで思い出したのは、その数日前に訪ねたバージニア州の連合本部で見た、唯一立ち入り厳禁の一室だ。それは、会員からの寄付金を整理する部屋だった。寄付金の小切手入り封筒がざくざく入った行李のような容器が次々に運び込まれる。この容器が毎日約百ケースは到着する、という説明だった。

キリスト教徒連合の成功とは、つまるところゲイ、中絶容認など革新側の動きに付いていけない、と考えていた保守層を、草の根組織に組み入れたことにつきる。
「六〇年の大統領選挙で、ニクソンはケネディに十万票差で負けた。キリスト教連合がその時存在していれば、ニクソンを勝たせることができたと思いますよ」
そう言うポール・ナギーさん52は、連合の組織対策責任者だ。ニューハンプシャー州をベースに東海岸全体を担当している。パット・ブキャナンの選挙参謀を経て、連合には九四年十月に加わった。
「議員の事務所に電話を五千本殺到させたこともある。『頼むから止めてくれ!電話ができないよ』と僕に泣きついてきた。ハハハ」

ナギーさんの仕事の一つは、連合の地域リーダーになりそうな人物をリクルートして「市民行動セミナー」という三時間ほどの研修を施すことだ。 そのテキストを見せてもらった。
なるほどこれはよくできたマニュアルだ。「神学論争は避けましょう」「夕食後の暇な時間帯を狙って」など電話での支持者探しのコツから、有権者登録の方法、法案が法律になるまで、といった法律・行政の手続き解説まで。地域責任者になった場合に、毎月すべきことを記したカレンダーも付いている。
「つまり、政治の手続きを教え、どうすれば参加できるかを一から十まで教えるわけです」

インタビューの次に彼に会ったのは、二十日夜、ブキャナン氏の戦勝祝賀会だった。バンドの演奏で狂喜乱舞する人々に混じって、サックスを吹く禿頭の男性。ナギーさんではないか。
「僕も、昔はマリファナを吸ってベトナム反戦運動に参加していたんですよ」

ナギーさんの口から意外な物語が出てきた。十五年間プロミュージシャンとして活動していたこと。が、結婚に二回失敗。かつての音楽仲間が自殺やエイズで次々にこの世を去ったこと。
「五、六年、実験的なことをして過ごした時期はあった。でもそれは僕の人生には役立たなかった。歳を取って、昔両親に教わったモラルや信仰に帰ってきたのです」

最後に、問うてみた。日本はまだ米国よりは強い家族構造を持っている。が、子どもの自殺やいじめなど社会問題はなくならない。家庭を保護すれば犯罪や貧困もなくなる、というのは楽観的すぎるんじゃないですか。ナギーさんは次のように答えた。
「もちろん、全ての答えにはならない。が、六十年代から七十年代にかけて、この国の価値観や道徳はみんなひっくり返ってしまった。子どもたちは混乱し、鬱や自殺に陥っている。日本も物質社会と言う点では同じでしょう。そんな社会にキリスト教に限らず宗教は希望を与えてくれるのです」

(AERA96.3.11)




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