陳述書
東京高等裁判所民事第16部御中
日本出版労働組合連合会(出版労連)
執行委員長 津田 清
東京都文京区本郷4-37-18 いろは本郷ビル2F
TEL・FAX 03-3816-2973
出版およびその関連産業で働く労働者で組織する日本で唯一の産業別労働組合、日本出版労働組合連合会(略称=出版労連)を代表して、オリコンより名誉毀損による損害賠償請求の訴えを起こされた、出版労連組合員の烏賀陽弘道さんを支援するために、意見を申し述べます。
1.日本出版労働組合連合会(出版労連)について
1953年4月に7社企業組合、6社個人加盟組合が参加した「出版労働組合懇談会(出版労懇)」が母体となり、1958年3月に33単組3,100名を擁する「日本出版労働組合協議会(出版労協)」が結成され、現在の出版労連がスタートしました。日本出版労働組合連合会(出版労連)と改組したのは、1975年7月です。現在は、小学館労組、岩波書店労組、有斐閣労組、三省堂労組、平凡社労組、東洋経済新報社労組など、約130組合6,000名が加盟しています。
烏賀陽さんが所属するユニオン出版ネットワーク(略称=出版ネッツ)は、出版労連直属のフリーランスの個人加盟組合として、特に重要な位置づけをしています。
出版労連は以下のことを目的として掲げ、活動しています。
1.低賃金と労働強化を打破し、労働者と労働組合の諸権利を拡大し、社会的地位の向上をめざす。
2.平和と民主主義を守り、思想、言論・出版の自由のためにたたかう。
3.出版産業並びにその関連事業の労働者の団結を強め、全労働者階級の統一につくす。
今年2008年は出版労協結成から50周年の節目の年となります。そこで3月以降、出版労連結成50周年記念行事として、出版産業を支える諸団体、?日本書籍出版協会(書協)、?日本雑誌協会(雑協)、?日本出版取次協会(取協)、日本書店商業組合連合会(日書連)、出版健康保険組合(出版健保)、出版厚生年金基金と連携をし、出版産業の発展を念頭に置いた学習会などを行ってきました。
このように、出版労連は、出版産業界に大きな影響を持つ、唯一の産業別労働組合として、労使双方から大きな信用と信頼を持たれている組織です。
2.オリコンの提訴が言論を抑え込む行為であること
オリコンの提訴は明らかに音楽ジャーナリスト烏賀陽さん個人の発言を封じるための訴訟であり、訴訟権の濫用といわざるを得ません。
オリコンがプレスリリースで、「この訴訟の目的は名誉毀損の損害回復ではなく、烏賀陽氏に発言の過ちを認めさせ、謝罪させることだ」と公言したことは、今回の訴訟の目的が言論・批判封じにあることを明示しています。
しかも、5000万円という高額の訴訟によって発生する被告側の弁護費用などの経費は、フリーのジャーナリストにとっては死活問題ともなるほど大きな金額です。この金額はフリーのジャーナリストのその後の発言を押さえ込むためには、十分な恫喝となりえます。
まさに、民事訴訟の体裁を取った脅迫行為(SLAPP)と言えます。
欧米ではこのような高額の賠償金による恫喝訴訟は禁止されています。また、日本の司法においても、先般の武富士によるいわゆる「批判封じのための恫喝訴訟」が、「言論、執筆活動を抑圧又は牽制するために訴訟を提起した行為は違法」と断罪されていますし、「言論による批判に対しては、民主主義社会においては、資料の裏付けのある言論で応酬することが求められている」との司法判断も下されています。
そのため烏賀陽さんは「訴訟に名を借りた違法な言論封じ」としてオリコンを反訴しましたが、東京地裁はオリコン側提訴の異常性を充分かつ公正に吟味せずに、「一般に、不法行為責任を負担するものが複数存在する場合に、その被害者がすべての不法行為責任者に対して訴訟を提起する義務を負うことはない」という、現実的ではないこと甚だしい考え方をもって、烏賀陽さんの反訴を退けました。さらに、「原告が5000万円の損害賠償を求めている点も、一般に、名誉棄損訴訟においては、損害額が比較的に高額に設定されるのが通常」だから違法とは言えないという、一般常識とは大きく隔たった判断を示しました。
このように今回の東京地裁判決は、それ以前の司法判断の流れにも逆行し、「高額訴訟による言論封じ」「個人に対する恫喝」「取材源そのものへの攻撃」を容認する、憲法の原則に反する判決との認識に立って、私たち出版労連は烏賀陽さんを支援するものです。
3.出版社の編集責任の重さについて
オリコンが提訴したサイゾーの記事に対して、烏賀陽さんは全く執筆をしていません。烏賀陽さんはサイゾー編集部の取材を受けて、コメントをしたにすぎないのです。
著作物には必ず著作権が発生します。雑誌サイゾーに掲載された記事にも当然、著作権が発生しています。今回の提訴の原因となった記事の著作権はどのようになっているのでしょう。このことは一審では明らかにされていません。
烏賀陽さんがコメントした内容がそのまま掲載されたのならばその部分の著作権は烏賀陽さんに帰属します。そのような場合には当然のことですが、著作権者が権利を放棄したり、著作権使用料の支払いを免除したりしないかぎり、出版社は著作権者に対して著作権使用料を支払わなければなりません。今回の取材に対して烏賀陽さんは、サイゾー編集部から著作権使用料についての話をされていませんし、それどころか1円の謝礼さえ受けていません。
なぜならば、烏賀陽さんのコメントはそのままサイゾーに掲載されたのではなく、烏賀陽さんのコメントを一つの素材としてサイゾー編集部が記事をまとめたからです。この場合、一般的には出版社に編集著作権が発生します。したがって、その記事の内容に対する一切の責任は出版社が負うことになります。
新聞記事の場合は編集著作権とは別に編集権の存在が広く知られています。雑誌の編集についても同様の立場から編集権の存在が考えられます。雑誌編集者が編集権を主張した場合、取材を受けてコメントした烏賀陽さんが掲載記事に対する責任を持つ必要は全くありません。それどころか、編集権者の前では、烏賀陽さん個人の主張はないに等しいと言っても過言ではありません。
それだけ、出版社の編集責任は重いのです。それが出版業界の常識であり、今回のオリコンの提訴が出版業界の常識からみて、かけ離れているものであることを、強く示すものです。
4.金銭の支払いを課せられる恐怖感について
東京地裁は判決で、烏賀陽さんに100万円の支払いを命じました。裁判費用を別にして、この判決で示された100万円という金額は、フリーのジャーナリストにはとても重い金額です。
さらに、烏賀陽さんのように取材に対してコメントをしただけで、100万円もの支払いを裁判所から命じられるような事態が当たり前のこととして定着してしまったならば、だれもコメントをしなくなります。つまり、言論の自由のもとに、さまざまな情報を社会に伝えようと活動するジャーナリストたちが、著名人だけでなく街頭で一般市民に求めたコメントでさえ、拒絶されるような自体が起こりかねません。
そうなればこれは、民主主義の危機です。出版業に関わるものは、憲法で保障された「言論・出版・表現の自由」を標榜し、業務に邁進しています。したがって、出版業の根底を揺るがすような東京地裁の判決を認めるわけにはいかないのです。
5.おわりに
出版で働く労働者は、常に自由な言論の発信者であることを肝に銘じて働いていると言って過言ではないと思います。なぜなら、それがなければ出版産業自体が成り立たないからです。
オリコンが起こした烏賀陽さんに対する名誉毀損訴訟は、自分に都合の悪い言論を封殺するために高額の損害賠償をするという、身勝手な訴訟であり、訴訟権の濫用です。
私たち出版労連は、「言論・出版・表現の自由」の実行者であり、守護者であるとの思いから貴裁判所に強く訴えます。どうか貴裁判所によって、1審判決の誤りを正し、言論・出版・表現の自由とその基盤をなす取材源や情報提供者の権利を守る、まさに正当な司法判断を示していただくようお願いします。
以上、意見を陳述し提出申し上げます。 |