logo_s.gif (1064bytes)



■日経、オリコンを「こうした不可解な訴訟も投資家の評価を下げる」と論評■

  

 

 昨年末にオリコンが私を相手取って名誉棄損の損害賠償訴訟を起こしてから、相手方のことながら心配だったことがひとつある。こんな訴訟を起こして、オリコンのコーポレイト・イメージが潰滅的に悪化してしまうんじゃないかということだ。

 これは別にオリコンのことだけを心配して言っているのではない。好むと好まざるとにかかわらず、「オリコン」の名はある種日本のポピュラー音楽業界を代表するキーワードのひとつになってしまっている。オリコンのコーポレイト・イメージが悪化すれば、日本のポピュラー音楽業界全体のイメージが悪化することは避けられない。オリコンはそのことを自覚しているのだろうか。

 さて、もうさんざん議論が尽くされているのでしつこく繰り返すのは野暮だが、念のためもう一度確認しておく。この訴訟は「サイゾー」2006年4月号に掲載されたコメント(烏賀陽は筆者じゃありませんからね!)の内容が真実かどうかという「真実性」を問う以前に、訴訟の「やり方」に問題が多すぎる。

(1)「サイゾー」の取材に応えるという形で公的に発言した人間(=烏賀陽)を訴えて、媒体である「サイゾー」も発行元である「インフォバーン」も訴えず、烏賀陽を経済的、人的支援から分断したこと。

(そもそも名誉棄損は『名誉を毀損する文書を大量に頒布する』から成立するのであって、印刷機も持っていない(笑)烏賀陽を訴えて出版元を訴えないのでは名誉棄損の構成要件に欠ける。これは笑っちゃうほど当たり前のことなのだが、ここでは深入りしない。そのうち法廷で明らかになるのでしょう)

(2)「サイゾー」の取材に応えたにすぎない「情報源」である烏賀陽だけを訴えたことで、「企業に批判的な発言をすること」に甚大な委縮効果を広めたこと。

(3)つまりオリコンの提訴は言論の自由への威嚇であり、公的発言の自由(表現の自由)への破壊行為である。特に(2)は「取材」という報道の根幹を破壊するという意味で、報道の自由への挑戦行為である。

 ゆえに、オリコンの狙いは、損害された名誉の回復・賠償というより、烏賀陽の言論活動を妨害する、あるいは烏賀陽の公的発言者としての信頼性を破壊して抹殺する、訴訟によって経済的・社会的に回復不能なダメージを烏賀陽に与えることではないかという疑いを抱かざるをえない。つまり訴訟を目的外に使った「訴訟権の濫用」であると私は信じている(だから反訴した)。

 さて、ここからが本題なのだが、こういう無茶な訴訟を起こした企業を、市場はどう評価するのだろうか。オリコンは、ヘラクレスという市場に株式を上場した、れっきとした上場企業なのである。

 もし市場が「烏賀陽を訴えるとは、何と素晴らしい経営判断だろう」と評価したなら、オリコンの株価は上昇しているはずだ。逆に、「そんなことする会社って、ちょっとなあ」とマイナスに評価したなら、落ちているはずだ(もちろん、訴訟だけじゃなくて他の経営要素で株価は上下するのは先刻承知だが)。

 そんなことを考えていたら、面白い記事を見つけた。日本経済新聞社のケータイ・ポータルサイト「日経・マネー&スポーツ」のコーナー「日経BOOKサプリ」である。そのメニューのひとつに「ほとんど週刊 日経会社情報」というコラムがある。「日経会社情報」の編集長がウィークリーで執筆するコラムなのだが、こんな内容が掲載されていた。興味深いので、少々長いが引用する。

 

------------------------------------------------------------------------------

 2007年3月期の上場企業の決算発表がほぼ終わりました。全体としては好業績でしたが、新興市場の上場会社の苦戦ぶりも目を引きました。私が気になった会社の一つとして、大証ヘラクレス上場のオリコンを取り上げます。そう、有名な音楽ヒットチャートを手がける会社です。07年3月期は経常赤字に転落し、株価も低迷しています。

 私は昨年の暮れ頃から同社に注目していました。「事実誤認に基づく誹謗中傷」があったとしてフリージャーナリストU氏を提訴し、5000万円の損害賠償と謝罪を求めたのが発端です。事の経緯をかいつまんで言えば以下の通り。ある月刊誌がオリコンのランキングについて音楽評論の世界で名の知れたU氏に電話で取材した→U氏は求めに応じてコメントした→月刊誌がU氏のコメントを含む記事(ランキングに疑惑の目を向ける内容)を掲載→オリコンがU氏を提訴した。

 ここで驚かされるのは、同社が訴えたのは電話取材に応じてコメントしたU氏だけということです。記事の雑誌の発行元の会社も執筆者も提訴の対象になっていない。私は20年以上、新聞や雑誌で記者をしてきましたが、コメントした人だけが訴えられるなんてことがあるとは夢にも思いませんでした。

 自社の商品やサービスが誹謗中傷されたのなら、対応策を取るのは当然です。上場企業なら、株主の利益のためにも然るべき行動を起こすべきです。しかし、個人のジャーナリストだけに5000万円を支払えという行為には疑問を強く感じます。オリコンは自社サイトで、「発行元の会社を提訴すれば、記事全体に論点が拡大し争点があいまいになることが危惧される」として、U氏のみを提訴した理由を語っていますが、この説明では説得力は乏しい。経済力や訴訟対応ノウハウに乏しい個人なら屈服させやすいという安直さ、品のなさを感じてしまうのです。

 会計不信や相次ぐ業績予想の下方修正などで、新興企業に注がれる視線が厳しくなる中、こうした不可解な訴訟も投資家の評価を下げる行為ではないでしょうか。『日経会社情報』の編集長として、出版社に身を置く者として、私は2008年3月期も業績・株価の動向と訴訟の行方の二方面から同社をウオッチし続けようと思っています。

------------------------------------------------------------------------------

 さすが日経だなあと感心した。「こうした不可解な訴訟も投資家の評価を下げる行為ではないでしょうか」とはっきり書いているではないか。そう、投資家の企業に注ぐ目は、時に経営者の想像以上に厳しいのだ。

 そう思ってオリコンの株価を調べ直してみた。訴訟が公になったころの06年12月ごろは10万円から12万円前後まで上昇しているのに、07年6月8日現在では5万0200円。何と半値ではないか。

 「株価は市場の言語」というそうだが、言い得て妙である。株式市場は、オリコンという企業の昨年12月からの経営(訴訟も含めて)に、ちゃんと評価を下しているのである。見ている人は、見ているのだ。

 これまで、オリコン訴訟についてマスメディア論や言論の自由という基本的人権論からとらえた議論は多数出ているが、コーポレイト・ガバナンスやコーポレイト・イメージ、そしてそこから派生して株価に与える影響という「経済」「経営」の観点から論じたオピニオンは初めて見た。とても鮮烈で斬新だったので、紹介させてもらう(しかしケータイから写すのってシンドイな)。しかも「日経会社情報」編集長は、今後も、オリコンを訴訟と株価両面からウオッチし続けてくれるそうだから、心強い限りである。

(070608)

 

 

 

 

 
 




home.gif (613bytes)


u_han.gif (685bytes)
Copyright(C) 1997 Hiromichi UGAYA.