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「行ってきました! 冬ソナミュージカル!」

 キム氏は元朝鮮日報のニューヨーク支局長、小生の大学院留学時代の同窓生です。国は違えど同業の先輩、良心的な人柄と博識ぶりに敬服した小生、十余年を経た今も芝蘭之交を結ぶ栄に浴しております。

 その氏が数年ぶりに東京を訪問、拙宅にご招待しました。いつもなら、北朝鮮の核開発とか韓国の経済情勢とか、国際関係修士号保持者らしい話題で談論風発たるのですが、この日はちょっと問うてみたのです。「貴公、我が国におけるペ・ヨンジョン公(よーするにヨン様)フィーバーを如何思われん」と。すると子、曰く。”Oh, it makes us feel SO good.”(韓国人としては実に気分がいいですなあ)。

 キム氏曰く。今まで、表向きはともかく、韓国人は日本のドラマや映画が大好きだった。だが、日本人は韓国の作品にはちっとも振り向いてくれない。その「片思い」が、やっと「両思い」になった。しかも何と韓国男優が日本女性にモテモテ。愉快にあらざるを得ん也(とても愉快だ)。普段は理知的なキム氏が喜色満面、ムフフムフフとおっしゃるのです。

 しかし引っ張りますね、韓流ブームってのは。「冬のソナタ」がNHK-BSで放映されたのが03年でしょ。90年代「香港ブーム」ってのがあって、やれトニー・レオンだアンディ・ラウだと大騒ぎしていたのが2年かそこらでヘナヘナとしぼんじゃったのを見た小生としては、ヨン様も持って1年じゃろとナメてたが甘かった。冬ソナが一段落したと思ったら今度はチャングムだ、ヨン様が中休みならイ・ヨンエ姫だと、おお、今や「東洋のハリウッド」の栄冠はソウルが香港から奪取した感さえあります。

 毒を食らうば皿まで。行ってきました。「冬のソナタ ザ・ミュージカル」。いやはやしかし、会場の新宿コマ劇場に入ったとたん、これはもう阿鼻叫喚の世界ですな。冬ソナクッキーに冬ソナケーキ、ネックレスにTシャツと土産物売りが声を枯らして絶叫、女性客が押し合いへし合い、バーゲンセールのようなありさま。着席して見回せば、そこはオバチャン、もとい、妙齢のご婦人方の海でした。2100席あるだだっ広い会場に男性はワシしかおらん。その隣客の会話も「パク・ヨンハって向こうじゃレギュラー番組ないじゃない」「延世劇場公演も日本人だらけでねえ」と、モノスゴク濃い。うう何だか肩身が狭いよう。

 DVD7枚、全20話という悠久たる連ドラを2時間に短縮したせいか、ミュージカルの展開は轟然猛速ですが、みなさん元番組を見ているらしく支障は全くないご様子。電光掲示板に日本語訳が流れます。「永遠にこの愛 夜空に輝く星に賭けて」「ああ もう私たちを引き裂くことはできない」。うくく、お尻がこちょばい。

 でも、思ったのです。茨城県から団体バスで来た農家のおっかさんがハンカチ片手にウルウルしているのを見て。これて立派な国際交流やんけ、と。

普通の日本人が、東京のど真ん中で、ハングルのミュージカルを見て涙を流すなんて、10年前には想像もできなかった。

竹島だ靖国だと「違う点」ばかりを荒立てているより、韓国人も恋をする「同じ人間だってこと」を、ごくフツーのオバチャンに、こんなにもわかりやすく教えてくれた冬ソナの威力は、すごい。

小生だって、キム氏という友がいたからこそ「煎じ詰めれば韓国人も日本人もそんな大差ない」と肌で知ったのです。

ね、ヨン様がやってのけたことに比べたら、外務省や総理大臣がウダウダやってることなんて、屁みたいなものだと思いませんか?



 

 

(2005年4月号『サイゾー』より)

 

 
 




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